徒然あずちょも


 大雨に降られた。
 山鳥毛が頼まれていた農具の確認をしていると、突然降り出したのだ。はじめはトタンに打ちつける雨音もボツ、ボツと緩慢なものだったが、すぐにダダダダダダッと間断のない音に変わった。小屋の軒に出てみれば、雨雲が低く垂れ込み地面は泥地のようになっている。とはいえ、遠くに光が差しているのが見え、雨の勢いに反して辺りはそれほど暗くなかった。通り雨だろうとひとまず胸を撫で下ろした。
 それならわざわざ濡れるのも馬鹿らしく、軒下に佇んで雨宿りをすることにした。壁にもたれかかって白くけぶる本丸を見やる。畑にはもう人はいなかったが、鯰尾藤四郎と山姥切国広が森から本丸の裏口へ駆けて行くのが見えた。降り頻る雨がほの白いベールとなり、二振りの姿は山鳥毛からは朧げな白黒の点に見える。そういえば朝、山菜取りに行くとか言っていたか。
 つい二振りをじっと見ていると、軒から溜まった雨水がざっと滑り落ちた。一瞬頭上に顔を上げ、再び裏口を見やると、いつの間にやら勝手口の戸が開いていた。バスタオルを引っかぶって二振りが本丸に上がり込む。その影からちらりと目にも鮮やかなピンク色が目に飛び込んできた。

──あ、いる

雨はなおも絶えることなく降り続け、屋根に打ち付けていた。震える息を吐き出す。自分でもおかしなくらい動揺していた。




次へ

powered by 小説執筆ツール「notes」

270 回読まれています