徒然あずちょも


 ハゲた。
 しかも接吻の最中に。
 ふたりとも非番なうえに、気温が急激に下がり肌寒い日だった。人肌恋しさに触れあっていたら、不意に頭に軽い衝撃が走ったのだ。見ると山鳥毛がツルッパゲになっている。同時に咳き込んだのでもしやと思い頭に手をやれば、ぺたぺたという感触がした。
「丸坊主だぞ」
うん、やっぱり。小豆はため息をついた。
 この本丸はまあまあの頻度でバグるので、そりゃあこういうこともあるかもしれない。あるけれども何もこのタイミングで……。色気もムードも吹っ飛んでしまい、山鳥毛の上からどく。まじまじと内番着の彼を見ていると目が合った。
「なんだ」
「あらためて、わたしのこいびとって"やから"だなと……」
「言っていろ、芋坊主」
「しゅっけするならまじめにしゅぎょうするのだぞ」
「そこか?」
山鳥毛は様子を見るために立ち上がり、障子に手を掛けた。すっと音もなく障子が開いた瞬間、愛染の「号がーい!」という元気な声が遠くから聞こえた。
「ムラムラすると髪の毛なくなっちまうから気をつけろって───!!!」
勢いよく戸は閉じた。思い沈黙が部屋に沈殿する。
「……どうしようか」
「無理だ」
「あー……、わたしたちのなかはみなしっているし……」
「無理……」
「……そうだね」
小豆だって叶うならば今すぐ折れたい。
 部屋の空気が沈鬱極まりないものになったところで、トントンと戸を叩く音がした。山鳥毛と顔を見合わせる。どうすると無言で問う山鳥毛に居留守は無理だと首を振る。
 戸はおずおずと開けられた。するとぴかりと後光が部屋に差し込んだ。
「はっはっは、俺もハゲた。邪魔するぞ」
頭が満月になった三日月宗近だった。
 それからは三日月宗近を皮切りに、頭髪が四散したものたちが茶菓子片手にちらほら部屋にやって来る。一振りで来るものもいれば複数振りで連れ立って来るものもいて、要するにひとりだと恥ずかしいが、みんなで集まれば怖くないということだった。本丸としてもバグ被害にあった刀たちが固まっていてくれる方がありがたいので、いつの間にやら集合場所になってしまった。薬研などは「みんなで乱交したみたいだなあ」と笑って一期一振に後頭部をスパーンと叩かれていた。坊主頭なので凄まじく良い音がする。もちろん一期にも髪は一本も残されていない。
 最終的に自棄になった山鳥毛が秘蔵していた酒を解放し、みんなで飲んで笑って雑魚寝するうちにバグは修正されていた。 




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