徒然あずちょも
酢豚にパイナップルが入っていた。
小豆はパイナップル入りの酢豚も食べられる。この、られるというのが肝要なところで、この南国の果物のおかげで肉が柔らかくなることも、口に入れれば程よい甘味が餡と絡んで美味しいことも知っている。それでもつやつやとした甘酢の海にパイナップルが投入されている様にはつい身構えてしまうのだ。
一方、同じく酢豚定食のランチを頼んだ山鳥毛は嬉しそうに箸を手に取っている。元はと言えば山鳥毛が酢豚が食べたい気分ということで中華を選んだのだから当然のことだ。ゴロゴロ入っている大きな肉の塊を早速口に運んでいる。小豆も何食わぬ顔でピーマンを箸でつまんでひと口食べた。美味しかった。野菜は瑞々しくシャキシャキし、餡も酸味より甘みが強めに出ていて小豆好みだ。
「当たりだな」
山鳥毛が機嫌良く言った。そうだねと返したが、小豆は山鳥毛が大抵のものを美味い美味いと食べることを知っていた。決して貧乏舌ではないのだが、山鳥毛は味のこだわりというものが全然なかった。
どのくらいこだわりがないかと言うと、カレーが食べたいときの山鳥毛は、カレーライスは無論のこと、インドカレーにグリーンカレー、カレーうどん、カレーパン、カレードリア、果てはカレーコロッケでも喜んで食べ、そしてそれで気が済んでしまう。カレーコロッケはカレーではなくコロッケだと信じる小豆には信じられないことだった。山鳥毛は良く言えば鷹揚であるし、悪く言えばポジティブに無神経な舌をしていた。
酢豚の肉はジューシーで、中華スープもシンプルな味わいでとても美味しい。ふたりで美味しいねえだとか言っていたら、不意に山鳥毛が小豆の皿に箸を伸ばす。
「貰うぞ」
「え?」
「苦手だろう? すまない、食べたかったか?」
きょとんとした顔で尋ねられ、首を振ればひょいひょいとパイナップルをお茶碗に回収していく。
「しっていたんだ」
「なんとなくな」
「そのこまやかさを、したにもはっきすればいいのに」
「礼を言え」
白米の上にパイナップルってなんとも思わないのだろうか。おもわないんだろうなあ。品よくパイナップルを食べる山鳥毛に笑った。
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