6-5 零番迷宮 後編
【解決済み】
From:最上一善
ずっと、考えていた。仮に僕たちの計画が全て順当に進んだ場合、結末はどうなるのかということを。
架空の一ノ瀬君が世成君によって実体を持った時点で、迷宮内の誰もがその存在を否定出来ない。本物を知らないが故に、偽物であることの証明が出来ないからだ。
つまりそれは、実体となった一ノ瀬君の行いを否定出来ないということでもある。であるからこそ、生徒会選挙における一騎打ちで僕が勝つことも可能だと仮定し、実行した。
ではその後は?会長となった最上一善はどうなる?
このことについて僕は考え続けた。その仮定はこうだ。〝実体としての会長を得た迷宮は、その輪郭を崩し始める〟と。
この仮定通りに事が進んだ場合、僕の危惧するべきことはひとつ。それは世成鳳子の身柄だ。僕がいる限り、彼女の存在証明が揺らぐことは絶対にない。逆に言えば、僕の身に何かがあれば危うい状態だ。
御門君と二次君は至急、世成君のサルベージに入って欲しい。
仮定した通り、迷宮は既に崩壊し始めた。計画は成功したと見てまず間違いはない。僕は意識を失った世成君を抱え、渡り廊下を通ってなるべく入り口付近まで届けるつもりだ。しかし残念ながら、僕はこの迷宮を出ることが出来ない。このチェス戦において勝利を収めた僕は、この迷宮における影の生徒会長となってしまったからだ。
こうなる可能性があったからこそ、僕は世成君を勝たせるわけにはいかなかった。
さて、残された時間は少ない。あれこれ語っておきたいことはあるがまず、この迷宮を無事に解決出来て本当に良かったよ。一ノ瀬君から渡されたバトンを、僕たち解決部は落とさずに済んだんだ。
それからひとつ重要なことを伝えておく。世成君には、どうやら記憶障害の気がある。もしかすると目が覚めれば彼女は記憶を失っているやもしれない。彼女としても、その方が良いのだがね。
もしもその時は、世成君には「何も無かった」と、そう伝えてやってくれ。
く。渡り廊下は、もう使えないか……二階の階段は……まだ、使えそうだな……。
最期になるが、世成君が背水之陣で挑んだ覚悟には本当に感謝している。彼女がいなければ、この迷宮の謎を解明するには決して至らなかった。
そして僕は、自分の決断に後悔などしていない。誰かがやらねばならなかったことの責任を負えたことを、解決部の一員として心より誇りに思う。
それでは、さようならだ。
御門君、二次君、解決部の未来を頼んだ。
僕は至って冷静だよ。何も問題はない。
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