徒然あずちょも
ラーメンが食べたい。
それもこってりしたもの。油そばもいい。カツカレーもありかもしれない。とにかくもう脂っこくて化学調味料がこれでもかと入っているようなものが食べたい。激辛もありだ。
腹は減っているが、だからと言ってこの場を離れるわけにはいかなかった。小豆は手入れの順番待ちの最中だった。軽傷寄りの中傷。額からたらりと血が垂れる。それを袖口で乱雑に拭い、待機室の壁にもたれ掛かった。深い、疲労の滲んだため息が漏れた。
大敗を喫した出陣だった。幸い誰も折れずに帰還できたが、気分がくさくさすることこの上なかった。これは己に対する苛立ちだ。己が最も負傷が軽く、脇差や短刀の方が重傷だったのも心に来た。もっと的確に動けたのではないか。作戦立案に見落としがあったのでは。思い返すだに無限に反省点が湧き上がる。ひとりでいるから余計だった。ぐうと腹が鳴った。
ひょいと山鳥毛が顔を覗かせた。
「しばらく掛かるそうだ」
「そう」
「君も腹が減っているだろう。食べないか?」
お盆に乗っているのは拳大のおはぎだった。また腹が鳴る。苦々しい思いで顔を覆った。山鳥毛は笑った。
「私の分も食べればいい」
「いいよ」
「そう言うな。次の八つ時のリクエストを聞いてくれればいいから」
山鳥毛は持ち込んだ魔法瓶から湯呑みに茶を注いだ。大きな魔法瓶だった。居座るつもりなのだろう。
率直に言えば菓子の気分ではなかったが、固辞し続けてもまるで意地を張っているようなので、山鳥毛の言葉に従った。一個食べきったところで「どうだったんだ」と尋ねられた。
「ちけいをみあやまった。あのがけ、みためよりもおりるのはかんたんなのだ」
「そうだったのか……」
「それで、はいごからきゅうしゅうされた」
もう一つのおはぎを頬張る。素朴な甘さが口に広がる。
「けっしてたいさくがたてられないわけではなかった」
「報告、上げておけよ」
「あたりまえなのだぞ」
「編成は見直した方がいいか?」
「いや……」
腹に物が入って冷静さを取り戻した。あの面子なら、まだやれる。
「次はやり返してやれ」
咀嚼したまま見返すとにやりと笑う。お茶でおはぎを流し込む。ぱんと手を合わせてご馳走様をした。
「できないのか?」
「できるよ」
「追加で貰ってくるか?」
笑って首を振った。腹は十分満たされていた。
次へ
powered by 小説執筆ツール「notes」
271 回読まれています