徒然あずちょも


 ジャムの蓋が開かない。
 開かないったら開かないのだ。いま、小豆はどうしても燭台切お手製のコッペパンにいちごジャムを付けて食べたいのに、どうやったって開かない。目の前には焼きたてほかほか、きつね色もうるわしいコッペパンがある。内緒で貰ったラスト一個を部屋でこっそり食べてしまおうと思っていた。ちょうど山鳥毛は遠征中、独り占めするなら今しかない。
 ところが開かない。全然開かない。力を入れすぎて瓶の方を割りそうだ。もういっそ叩き割るかと早まりかけたところに、部屋の戸が開いた。入り口にはもちろん山鳥毛が立っている。あーあ、バレた。
 山鳥毛は小豆のことをよく知っているので、瞬時に事態を把握した。ふーんと意地悪く笑う。
「美味そうなパンだな」
この芸術的なコッペパンを「パン」の一言で済ませる解像度の低さが小豆には許しがたいわけだが、バレてしまったからには仕方ない。
「ふたがあかないのだ」
「君の腕力をしてか?」
怪力のくせにと言いたげではないか。頷くと山鳥毛はボールにポットから湯を入れた。あつあつの湯に蓋の部分を浸す。
「これでどうだろうか」
湯から引き揚げタオルで拭った瓶を渡される。力を込めて捻ってみれば、呆気なく蓋は開いた。
「ほらな」
「くわしいね」
「同居人が怪力なものでね。おやつのパンの働きくらいはしただろう」
「ぱんじゃなくてこっぺぱんなのだぞ」
山鳥毛はひと口だけでいいと固辞したが、それをそのまま受け入れる方が悔しいのでちゃんと半分分けてやった。





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