無自覚コミュニケーション
-Sは察する-
最後はおれだな。
ワノ国の戦いが終わったあとのことだ。ルフィもあいつも一週間眠ってたろ。その間、おれは二人のところに毎日顔出してた。言っとくが心配とかじゃねェぞ。いつ目覚めて飯が食えてもいいようにだ。ルフィとマリモ、どっちの様子も見てたからな。
おれ以外で毎日来てたのは一味とモモと日和ちゃん、錦えもんもそうだったか。侍連中はわりと顔出してたよな。キッドとキラーは二日に一回くらいだったが、毎日様子は聞いてきてた。
問題のトラ男は毎日来てた上に、夜は一晩ずっとマリモの傍にいた。たまたま夜に行くと必ずあいつがいやがる。何してるかと思えば、一晩中マリモの顔見てるだけときた。たまに心臓の上に手を置いてたからな、よっぽど心配なんだと思ったもんだよ。二人の頑丈さを嫌ってほど見てきたおれ達でさえ、今回は少し不安だった。あァ、でも、マリモにはそこまで不安はなかったかもしれねェ。……スリラーバークの時のあの野郎の怪我も、たいがいだったからな。
医者としてもバタバタしてるくせに、どこにそんな暇があるのかわからねェが、とにかくトラ男はマリモのところにいる頻度が高かった。おれが行くとだいたいいたよな。そんなんが目覚めるまで続けば、トラ男にとってうちのクソ剣士様がどれだけ大事なのか理解できる。おれは一時離れてたのもあってあの二人がどうこうは知らなかったが……そういや、鬼ヶ島で死にかけのマリモを託されたな。しかも「頼む」って念押ししていったんだよな、あいつ。頼むもなにも、おれァマリモの身内なんだが。どの立場から出た言葉なんだ、ありゃァ。
まァそんなこともあって、ゾロの目が覚めるまでおれはトラ男の片想いかと思ってたんだ。
そうじゃねェと知ったのは、あいつらが目覚めたあとの宴の最中だった。気づいたらマリモの姿が見えなくて探しに行ったんだ。その辺で呑んでりゃいいが、一人で出歩いて迷子になられちゃ敵わねェ。さすがにあの広いワノ国を探すのは勘弁だ。
幸いマリモはすぐに見つかった。人気のない場所で隠れるように呑んでたよ。宴の時は酒目当てに中心にいることが多い奴が珍しいと思うだろ。あんまり騒がしいのも嫌いだからな、あいつ。一人で呑んでる時も馬鹿みたいに静かだし。
とりあえず一人で出歩くなとだけ言っておこうと思って、マリモを呼ぼうとした。ちょうどその時だ、マリモの肩を誰かが抱いた。男だってのは腕見りゃわかる。一味の誰でもないのも、考えなくてもわかった。めちゃくちゃタトゥー入ってたからな。どうやらマリモは、トラ男と呑んでたらしい。
クソ剣士殿は酒の席だとやたら馴れ馴れしいだろ。逆を言や、酒の席なら相手の馴れ馴れしさも受け入れるんだ。そんで勘違い野郎を増産する。今回もその類かと、ちょっと様子を見ることにした。一味として、トラ男がどう出るのか確認したかった。
トラ男は肩に腕を回したまま、指先でマリモのピアスに触れた。あいつに嫌がってる様子はなかった。そこまで許してんのかと思ったな。おれら以外がピアス触ると嫌がるだろ、マリモ。ルフィが会った時にはもう付けてたらしいから、どういう曰くがあるのかは知らねェが。いまでも付けてるんだ。よっぽど大切なもんなんだろう。そこに触らせるってことは、あいつにとってトラ男は身内も同然てことだろう。そのあとマリモもトラ男のピアス触ったり、腕のタトゥー辿ってみたりしてたし、トラ男の腕が腰に移動しても嫌がる素振りもしねェ。あァこりゃ、トラ男の片想いじゃなさそうだとおれは察した。
ここまでくりゃ、てっきり出航までにくっつくと思ってたんだが。そもそも二人とも自覚すらしてねェとはな。恐れ入ったぜ。
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