無自覚コミュニケーション
-Rの驚愕-
私もゾウに行く途中の話をするわね。
あの船の人達って新聞を読まないように見えて、麦わらの一味の情報を追うために新聞は必ず取るのよ。私としてもとてもありがたかったから恩恵に預かっていたの。トラ男くんも同じだったみたいで、基本的に私と彼で回し読みをしていたのね。
ちょうどその日も、ニュース・クーが来た日だったわ。先に私が読んでいて、あとからトラ男くんが向かいのソファーに座ったのよ。たぶん私が読み終わるタイミングを計っていたのね。彼が腰を下ろした辺りで読み終わったから、ばっちりだったわ。そのままトラ男くんに新聞を渡して、気になる記事の話をしていたの。着眼点が似ているのか、私とトラ男くんが気にする記事はだいたい同じだったから、いつもそうしているのだけれど。彼、意外と歴史に詳しいのよ。それに医者としての意見も聞けるから面白くて。――ふふ、そうね。トラ男くんもすごいけれど、私達の船医はあなただけよ、チョッパー。
トラ男くんが半分くらい新聞を読んだ頃だったわ。ゾロがふらっとやってきて、トラ男くんの隣に座ったの。膝がくっつくくらい……いえ、もうくっついていたわね。びっくりしたわ。比較的近いルフィにもそんな距離で座らないじゃない? ルフィからならともかく、ゾロからはよほどスペースがない限りはしないでしょう?
トラ男くんもトラ男くんで、座った時にゾロを一瞬だけ見ただけで、近さには何も言わなかった。「何読んでんだ」って、ゾロが体を寄せてもよ。それどころか、自分から体を傾けて、わざわざゾロに新聞が見えるようにしていた。その上、新聞を一面に戻して、ゾロと読み始めたの。トラ男くんが先に読んでいたから、ゾロが気になった記事は解説を織り交ぜながら、まだ読んでいなかったところは考えながら。
彼、他人と一緒に新聞を読んだり、相手が気になる記事をいちいち解説するほど親切じゃないと思うの。ハートの人達ならそういうこともするでしょうけれど、いくら同盟を組んでいるといっても、他船の人間にするかしら。――ええ、そんなことされた覚えないでしょう? 私との話だって、情報交換以上の意味はないもの。
そもそも、一緒に読むのなら新聞だけを相手のほうに寄せればいいじゃない?それなのに、トラ男くんは自分から距離を縮めにいっていた。まるで仲睦まじい恋人のようだったわ。どうしてあれで付き合っていないのか不思議なくらい。二人とも自覚していないみたいだったから、いつ自覚するのかとても楽しみだったのよ。
――あら、私から言うのは違うでしょう? それに、トラ男くんなら早々に自覚しそうだと思っていたのよ。予想は外れてしまったけれど。
次へ
powered by 小説執筆ツール「notes」