無自覚コミュニケーション
-Pは見守る-
じゃあ順番的にはおれかな? そう、ハートの海賊団のペンギンさんです。お見知りおきを。
ゾウからワノ国へはうちの船に乗ってったってのは聞いたろ? これがまた、ワノ国まで遠くてねえ。けっこう長い間乗ってたよな。途中何回か物資補給に島寄ったりしたし。
うちの船――ポーラータングが潜水艦ってのは知ってるだろ。潜水艦らしく、基本的におれ達は海中にいるんだ。おれ達はもう慣れっこだけど、ロロノア達はそうもいかなくてさ。ゴッドとか睡眠薬貰いにきてたもんな。あ、でもロロノアは何日かしたらけろっとしてたっけ。適応力高いよな。
ロロノアの趣味って、酒と筋トレだろ? でもうちの船はここみたいにめちゃくちゃ頑丈ってわけじゃないからさ、ロロノアがいつも使ってる筋トレグッズとかは持ち込めなかった。下手に床や壁にダメージでも与えちゃうと浸水するからな。沈んじゃうといけないから、対荷重もある。いまさらだけど、ロロノアがいつも使ってるやたらでっかいダンベル乗っててよく沈まないよな、この船。
酒も積める量には限りあるし、頻繁に補給に寄れるわけでもないし、おれ達だって呑むわけでね。一日どのくらいまでって制限つけたんだ。ごねられるか脅されるかされるかと思ったんだけど、ロロノアって思ったより素直に従うんだよな。おれは居候だからなって、酒も筋トレも制限されてるのに特に気が立ってる様子もない。大丈夫なのか気になって聞いたら、耐えるのも鍛錬の一つだろう、って。あっさり言うもんだから、ちょっと悪戯心が湧いた。
今日だけ特別って、酒をね、その日の夕食で一本追加したんだ。そしたらさー、ロロノアが一瞬きょとんとしてさあ。見る見るうちに表情が明るくなって、「いいのか? ありがとう!」なんて無邪気に笑うからさあ。ハートのお兄さん達は、呆気なくノックアウトされてしまいました。
最年少はゴッドだったけどさ、ロロノアもたいして歳変わんないだろ? ゴッドも弟っぽさはあるけど、どちらかというと保護者じゃん、ロロノアの。弟感はロロノアのほうが強くて、だからハート総出でロロノアを可愛がっていました、おれ達は。筋トレという名のロロノアと手合わせ勝負大会ではボコされまくったけどな。キャプテン以外に相手になる奴がいなかったよ。
で、ここからが本題。――前置きが長い? ごめんねえ。いまから話すからね。
確かにおれ達はロロノアを可愛がってた。でも、その筆頭はキャプテンなんだよ。あの人、一日の飲酒量決めたって言ってんのに、その日の夜にロロノアを自分の部屋に呼んだからね。それから毎日一緒に呑んではそのまま船長室で寝ちゃうから、ほぼ麦わら組の部屋にいなかったろ? キャプテンは呑まない時もあったみたいだけど、ロロノアが呑まないわけないっしょ。酒があるって聞けば一も二もなく飛びついていくから、良いように懐柔されてんなあと、ペンギンさん始めクルーはみんな半分呆れてました。もう半分は、いいぞキャプテンそのままロロノアとくっつけ! って応援してた。だってあの人達、気づいたら二人セットでいるだろ。
最初はキャプテンにも良き友達ができたのかとほっこりしてたら、どうも友人にしちゃ距離が近い。あんな、肩や腕が触れるくらい隣に立つ必要ある? 他人に触られるのあんまり好きじゃないくせに、ロロノア相手だと急にパーソナルスペースがぶっ壊れるから、さすがのおれ達も察した。本人達は無自覚なのもね。
うちの船に乗ってる間にどうにかなれば良かったんだけどねえ。船長室の、キャプテンサイズとはいえ広くはないベッドで一緒に寝てるのを見た時は、とうとう行くとこまで行ったかと感慨深くなったんだけどな。ぬか喜びだった。本当に一緒に寝てただけだった。キャプテンはロロノアを抱きしめて熟睡してるし、ロロノアはロロノアでキャプテンに抱き込まれておいて、健やかに寝息立ててるし。そういえばロロノアが部屋に行くようになってから、キャプテンの隈が薄くなったんだよな。ロロノアはキャプテンの安眠枕だったのかもしれない。
……心の底から疑問なんですけど、本当に一緒に寝てるだけで何もなかったんですか? あのトラファルガー・ローたる男が? ――なかったんだ、そっかあ。――え? 一緒にいるだけで満足してそんな気にもならなかった? …………そっかあ……。
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