共に歩んだ軌跡に想いをこめて


「……触るぞ」
 小さく問う声に、マーロンは頷く。頬を赤く染めたまま足を開き、ギルの手に委ねた。熱を帯びた互いの性器が擦れ合い、ぬるりとした感触が走る。どちらともなく吐息が漏れ、お互いの性器をしごき合い指先が絡むようにふたりの中心を包む。固く熱を持ったそれらは触れ合うたびに震え、ぬめりと潤いが指の間に広がっていった。
「……ん、ぁ……ギル……っ」
 マーロンの声はかすれ、喉の奥で震えていた。ギルはその声にさらに昂ぶり、掌全体でそっと包みながら、滑らせるように擦っていく。上下に、ゆっくりと。時に少し強く、時にわずかに力を抜いて。リズムを見つけるように、ふたりの呼吸に合わせて動き続ける。
「……や、やば……っ、変な感じ……」
ギルの指が陰茎の裏筋をなぞると、マーロンの体が小さく跳ねた。そのお返しとばかりマーロンはギルの亀頭を撫で摩り己の亀頭を強く擦り付ける。
「んぐっ……ぅぉおっ……くっ……」
 亀頭の凹凸で擦り付けあい熱が溶け合うような感覚にギルが呻く。マーロンのように艶っぽい声ではないが、低く吃るような呻きがマーロンを興奮させた。体液が混ざり、濡れた音がぬちゃりと響く。男同士なのに、どこか淫らで甘やかな音に、ふたりとも行為を止めなかった。いや止める事ができない。
 ふたりの呼吸が合わさり、腰が自然と動き出す。2つの肉棒が擦れ、硬さが更に増し、びくりびくりと蠢くたびに、男達の熱が高まる。お互い手だけじゃ足りず、いつしか腰が本能のまま擦り寄ってくる。きゅっと張り詰めた陰嚢も擦り付け合う。滑らかに、何度も、ぬめりを生む音が増していく。肌と肌、欲望と吐息が混ざり、どこまでも熱い。
「もう……だめ、出る、マーロン……!」
 その言葉に、今度はマーロンからギルの顎を軽く引き寄せ、深く、長く口づけた。今度は吐息も喘ぎもすべて、キスで塞がれる。
「……う……ううう……」
 唇が舌を絡め、呼吸の隙間にお互いの名を押し込めるような濃密なキス。ちゅっ、ちゅ……と音を立てながら、絶頂の直前、心も体もひとつになろうとするかのようだった。そして──。

 震える身体をギルの腕がしっかりと支えた瞬間、マーロンの背筋が大きく跳ねた。ほとばしる熱が互いの腹に飛び散り、ギルもそれに続くように強くマーロンを抱きしめしがみ付き震わせて果てる。
「「……っ、……っ!」」
 唇を重ねたまま、息を整えるふたり。額と額を寄せ合い、汗と吐息、そして互いの体温だけが間に残った。それはどこまでも優しく、どこまでも熱い交わりだった。数度、震えるように呼吸を重ね、やがて力が抜ける。ギルはそっとマーロンの髪に顔を埋め、深く息を吐いた。

 濡れた指先と互いの腹に残った温もりが、ゆっくりと肌の上で冷えていく。ギルはそっとマーロンの髪を撫で、目元にかかる汗を拭った。
「……悪かったな、加減、わかんなくて」
 ぼそりと呟く声に、マーロンはふ、と息を吐いて微笑む。
「……なにが。ギルのくせに、妙に優しくて気持ち悪ぃくらいだったぞ」
「……だけど気持ちよかったんだろ?」
「そういう意味じゃねえって!」
 照れ隠しのような皮肉。けれどその目元は、穏やかに緩んでいた。ギルも小さく笑い、マーロンの頬に唇を寄せる。キスというよりは、ただ「ここにいる」と伝えるような、触れるだけの温もりだった。

「……俺を女扱いしなかったな」
 マーロンがぼそりと呟いた言葉にギルはきょとんとしながら即答した。
「当たり前だ。お前は、マーロンだからな」
「てっきり、その……俺は挿れられるんだと思ってた」
「そうされたかったのか?ドレスでも買ってやるぞ?」
「バカ……」
 お互いそれきり余計なことは言わなかった。マーロンは果てた体を毛布に包みギルに預けるように身体を寄せた。こうなる事に気を利かせてギルが購入して準備した上等な寝具の肌触りが心地よい。ギルはその背を毛布越しにゆっくりと撫で続ける。肩のあたり、背中の筋肉の流れ、腰のあたりまで、なだめるように。毛布越しに触れ合うだけなのに、それだけで充分すぎるほどに満ちていた。やがて、マーロンの呼吸が静かに深くなっていく。
「寝ちまったか……?」
 ギルが囁くと、マーロンがうっすらと目を開け、半分眠った声で呟いた。
「……うるせぇ……眠い……から、うごくな……」
「はいはい、動かねぇよ。……俺も、もう……限界だ」
 マーロンのシルクのように滑らかな髪に指を通しながら、ギルも毛布をかけ直し寝心地を整え静かに目を閉じた。

 いつのまにか夜の街の喧騒がなくなり静寂に包まれていた。外の風の音すら遠ざかっていく。ふたりの体温が一つの褥で重なり合い、深い眠りに引き込まれていく。眠りに落ちる直前、ギルはかすかに微笑んだ。そしてふたりは互いの温もりを感じながら、静かに深く眠りへと沈んでいった。

 この夜が、何かを大きく変えたわけじゃない。だがふたりは、もう互いが、ただの相棒以上の存在となっていた。

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