寂しき忠臣

「叔父上! 重郎兵衛叔父上っ!」
 甥の切羽詰まった声が聞こえたのは、穏やかな秋晴れの日だった。息せききって転がり込んできた男の姿に、頭の後ろが冷たく強張っていくのを感じる。
「どうしたんだ、定平」
 甥である村上定平は、玄関先で膝を折って咳き込んでいた。定平の元に駆け寄り、肩を激しく揺すぶる。心臓が早鐘を打つ。何かとてもよくないことが起きたと、真木重郎兵衛の直感が告げていた。
 呼吸を落ち着かせて、定平が顔を上げた。普段なら聡い光を宿している目が、真っ赤に充血していた。
「渡辺様が、お腹を召された!」
 天保十二年、十月十一日。それは、考えうる限り最悪の事態だった。
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