6-3 零番迷宮 前編
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【迷宮突入】
From:最上一善
やあ、最上だ。先ほどようやく迷宮に入れた。
僕たち解決部は一ノ瀬君の置き土産とも言うべき謎に直面したわけだが、全ての謎は解決の時を待つべくして存在している。と同時に、全ての謎には必ず隙があるものだよ。従って解決の手段も必ず必ず存在する。
先んじて迷宮に足を踏み入れた世成君の件は既に聞いているよ。非常に残念ではある。しかし彼女なりにもがいた結果にも、自ずとヒントは隠されているはずだ。
御門君、君の心労は推し量って余りある。だが今は落ち着いて、解決までの時を待っていてほしい。繰り返しになるが、全ての謎には必ず隙がある。そしてその隙を突く。そのために僕がいる。
一ノ瀬君が残した「いつだって解決部は謎を、依頼を解決しなくちゃいけない」という言葉、ここで僕が受け取ることにしよう。
僕は至って冷静だ。問題は無いよ。
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【途中報告】
From:最上一善
さて、差し当って幾つかの実験的な沈静化を試みた。投票箱の撤去、投票用紙の書き換え、獲得票の買収。ところがどうして、報告通り架空の一ノ瀬君が当確するという結果は揺るがないという始末だ。
件の結果から鑑みるに、これらの選挙は〝一ノ瀬君の会長当選に向けて自体が収束している〟のではなく、〝一ノ瀬会長という概念は既に存在しており、それにそぐわぬ過程が全て修正されていく〟という状況だと見える。問題は言わずもがな、そこに一ノ瀬君が存在していないという〝捻れ〟が起こってしまっているために、選挙そのものが繰り返し続けているということだね。
我々は御門君の要望通り、〝架空の一ノ瀬濫觴を当選させない〟という結果を得るべく注力し続けていたわけだが、この辺りで発想を逆転させる必要があると判断する。
つまりは何故、〝架空である一ノ瀬君の当選が確定しているのか〟ということだね。これを僕は〝学園生徒たちの承認により生まれた認知の歪み〟だと仮定した。それは〝一ノ瀬濫觴を会長とする〟という生徒たちの承認によって生まれた、〝一ノ瀬濫觴は存在している〟という認知の歪みである。この〝生徒たちの意識の中だけに存在している架空の一ノ瀬濫觴〟という歪みを逆手に取り、正すことで事態の収束化を図りたい。
よって正しい生徒会選挙を執行するためには、まず会長ではない一ノ瀬君が必要である。と、僕は結論付けるに至った。
〝虚〟を穿つには〝実〟が不可欠だ。その〝実〟を生むべく策を弄してみることにする。彼女の助力があれば恐らく大丈夫だろう。
御門君、今しばらく解決の時を待っていてほしい。
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