天鬼成り代わり

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成長If



・「忌み子」
5年の月日で漸く自分という概念を確立できた。その代わり根底的なところに己が死にぞこないであるという自認が生まれている。その意識は絶対的で多分一生覆せない。事実としてあの奇妙な一か月がなければ無知な少年は抵抗するということすら知らないまま殺されていた。


・きり丸
一人で生きていけるけど、独りでは生きられない。
6年の月日で忘れそうだった家族の、友達の暖かさを思い出してしまったから。



✧︎sideきり丸

「忌み子」がするすると優しい手つきで包帯を巻いていく。ぼんやりとそれを眺めていれば、ふとその手の酷い火傷痕が目についた。制服から覗く出会った頃よりずいぶんと大きく肉付きも良くなった「忌み子」の身体に惨たらしく散らばる傷跡や火傷痕は俺に出会うよりも前からずっとそこに存在している。それがどういった経緯で現状に至っているのかは五年の時を過ごした今でさえ一つも教えてもらったことは無かった。だけどどこか達観しているような振る舞いをするくせにいつも何かに怯えたような素振りを見せるのはそこから来るんだろう、と勝手に推測を立てていた。それが当たっていようが見当はずれだろうが、おれと「忌み子」が同じ家に帰る家族であることに変わりはないのだから別にどうだってよかったけれど。包帯でぐるぐるにまかれる己の肉体を眺めながらそういえば此奴図書委員になる前は保健委員の見学に行くことが一番多かったな、なんて頓珍漢なことを考える。真剣な眼差しはサラの包帯にばかり向いていて、当の怪我人であるおれにはチラリとも向かない。沈黙の広がる医務室はどうにも居心地が悪くて。くだらないことばかり思いだして、口に出そうとして。真剣な眼差しの「忌み子」を邪魔するのも悪くて全部飲み込んだ。

「おれさぁ、死んだことあるんだよね」
「は?」

先に沈黙を破ったのは「忌み子」だった。やっぱりこちらを見ることなく、手も止めずに明日の天気の話でもしてるんじゃないかってくらい、いつもと変わらぬ調子で話し始めた。だけど世間話で納めるには些か話題が物騒で思わず聞き返す。

「本当はさ。餓鬼の頃に水瓶に沈められて死んでるはずだったんだよ」
「なん、なんだよそれ」

初めて聞いた昔話。あっけらかんと語る姿は本当に気にしていないようで、顔色を窺っているおれの方が間違っているような気すらしてしまう。


「ほら、俺の見た目ってこんなんじゃん?だからさ、忌み子は座敷牢に閉じ込めて虫の居所が悪い時に嬲るのに使って。飽きたら処分してしまおう~~みたいな?」
「みたいなって、そんな笑って」



「はは、だからさ。俺、死にぞこなっただけだから。うっかり手違いで生き延びてるだけだから」
「「忌み子」?」

だから、だから、と泣きじゃくる子供の嗚咽みたいに繰り返す。声が震えている。

「間違っても、俺なんかを庇ったりしないで」

祈るような声だった。きゅう、ときつく俺の手を握る「忌み子」は俯いていてその顔色は見えなかったけれど。震える肩が、なんだか幼い子供のようだった。俺なんかって言うなよ、とか今日の怪我はお前のせいじゃないだろ、とか沢山言いたいことはあったのにそのどれもが言葉にならない。




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