高杉社長とトレジャーハント!
再びドローンを使って位置把握をしながら森の中を進む。道中ときおりエネミーが現れるが、最初のゴーストと変わらずあっさり倒せる。
小さな島なのもあって、すぐに宝の地図が示す中心部にたどり着いた。そこには大きな洞窟が口を開けて待っていた。
「宝の地図に洞窟、らしくなって来たじゃないか」
「らしいというかベタというか」
「ベタとは言うが、皆がこぞって真似したがるような王道ってことだろう? つまらないのは願い下げだが、面白いからこその王道なのさ」
高杉はそう言うと、洞窟へと入っていく。
「それは一理あるけど」
マスターも後を追う。中は外の暑さが嘘のようにひんやりしている。
「トラップはないのか? こういうのは道いっぱいの大岩が転がってきたり、落とし穴があったりするものだろう」
「高杉さん、変なスイッチがあっても押さないでくださいね」
「ふっ、押すなと言われれば押したくなるのが人間だ」
「ダメです」
なぜかキリリとした表情になる高杉に、本当に押しかねないと思ったマスターは釘を刺しておく。どうか壁一面にスイッチがあるような洞窟ではないことを祈るばかりだ。
特に分かれ道もない洞窟を奥へ進むが、トラップどころかエネミーすら出てこない。高杉は口を尖らせて文句を言うが、マスターとしては危険はないに越したことはない。
やがて開けた場所にたどり着いた。そこにいるものを見て二人は思わず息を呑む。
「財宝を守るドラゴンのお出ましってわけか……!」
一体どこから入ったのか。洞窟の入口よりも遥かに大きいドラゴンがこちらを睨んでいた。
敵と見定めたのか、ドラゴンは吠えると真っ直ぐこちらへ腕を振りかざした。
「ちょっと失礼!」
高杉はすぐにマスターを抱えると横に飛んで振り下ろされた腕を避ける。轟音と共にさっきまでいた岩陰が粉々に破壊された。
「ここまでトラップの一つもないなんてつまらない洞窟だと思ったが、最後にこんなイベントがあったとはな」
高杉は楽しそうに言うが、その顔には冷や汗が浮かんでいる。
入口が攻撃による瓦礫で埋まってしまわないよう、高杉は横に飛んだ勢いのまま走って距離を取る。牽制のため電磁三味線に仕込んだ機関銃をドラゴンに向かって撃つが、あまり効いてはなさそうだ。
ある程度は距離を取ったので抱えていたマスターを下ろす。マスターは礼を言うと、すぐに魔術礼装の起動準備に入った。
「これより、長州男児の肝っ玉、お目に掛けるとしよう!」
高杉は高らかに叫ぶと、まずは自身の前に複数の砲台を召喚する。
「目標、ドラゴン! 撃てー!!」
高杉の掛け声に合わせて一斉に砲撃が始まる。爆音が洞窟全体に反響し、辺りにもうもうと硝煙が立ち込める。
煙の向こうから赤い光が一瞬見えた。それは熱を持って高杉のいる地面に迫ってくる。ドラゴンのブレスだ。
高杉は素早くその場から離れる。砲台が破壊され、すぐ後ろから爆発音がした。
ドラゴンの攻撃がマスターに向かないよう、手榴弾をいくつか投げて気をこちらに逸らす。
「これでもマスター君のアーチャーでね!」
続いて高杉が手を掲げるとロケットランチャーが現れた。肩に担いで狙いを定めると、引き金を引く。ロケット弾が発射され、ドラゴンの顔に命中する。流石に効いたのだろうか、ドラゴンは咆哮を上げる。
ロケットランチャーを放り投げ、次の一手を打とうとしたところでドラゴンの尻尾が猛スピードで振るわれる。高杉は避けきれずその体が壁に叩きつけられた。一瞬息ができなくなり、ミシリと嫌な音がした。
「高杉さん!」
「ゲホッ! 今のは効いたな! だが、面白くなってきた!」
全身を走る痛みに顔を歪めるが、マスターの声ですぐに体勢を立て直す。その顔には面白くて仕方ないと言わんばかりの笑顔が浮かんでいた。
ドラゴンは追撃をしようと鋭い爪を持つ腕を振り上げる。高杉は懐から小型のリモコンを取り出すと、そのボタンを迷いなく押した。
ドラゴンのちょうど真上から派手な爆発音がした。いつの間に仕込んだのか、それとも宝具によるものだから仕込む必要すらないのか、天井に仕掛けられた爆弾によってできた瓦礫がドラゴンに降り注ぐ。
瓦礫の下敷きになったことでドラゴンからの攻撃が止まった。その隙にマスターは高杉へ魔術礼装による回復を施す。全快までにはいかないが痛みは引き、体が軽くなった。
マスターに礼を言うと、今度はプロトアラハバキを召喚してそれに飛び乗る。瓦礫から起き上がったドラゴンに小型ミサイルや機関銃による銃撃をくらわせる。ここまでの攻撃によるダメージが効いてきたのか、ドラゴンが苦悶の声を上げた。
「今だ! マスター君!」
「『幻想強化』!」
マスターにより攻撃の強化を受ける。
高杉はプロトアラハバキからドラゴンの頭上にまで飛び上がり、電磁三味線から出した液体金属刃を振り上げた。
負けじとドラゴンが咆哮と共にブレスを放とうとする。高杉がいるのは空中。通常は避けきれない。だが、
――『予測回避』!
先程の回復時、一緒にマスターから受けていたスキル。これによって高杉は放たれたブレスを無理矢理回避した。そして、
「SHINSAKUストラーイク!」
ドラゴンの脳天に強化された一撃が入った。
ドラゴンは断末魔の叫びを上げ、ついに崩れ落ちた。その姿はかき消え、洞窟内に静寂が戻る。
「た、倒せた……!」
「いやー、実に楽しかった! 君の援護も助かったぞ!」
高杉は上機嫌にマスターの背中をバシバシと叩く。マスターは照くさそうにしながらも、高杉に笑いかけた。
ドラゴンが倒れたことで改めて広場の中を調べると、入口とは反対側に小部屋を見つけた。
「すごい……」
「おお! こいつはまさしく宝の山だな!」
そこに入ると、そこには金銀財宝が山のように積まれていた。一番上には聖杯がある。
マスターはまず聖杯を回収する。他にもリソースとなりうるものは回収したい。
「全部となると結構な量だな。プロトアラハバキで運ばせるか?」
「できるならお願いしたいけど…………あれ?」
小さな揺れと共に、上からパラパラと細かな石が降ってきたのに気づいてマスターは天井を見上げる。先ほどの戦闘でできたのだろう亀裂がどんどん大きくなり、合わせて揺れも激しくなっていく。
「高杉さん……これもしかして……」
嫌な予感がしてマスターの顔がひきつる。隣を見れば、彼は実に楽しそうに笑っていた。
「あっははははは!! そうだ、トレジャーハントの最後はこうでなくっちゃな!」
「笑ってる場合ですか!?」
「場合じゃないな! 逃げるぞ、マスター君!」
高杉はマスターの手を取ると外に向かって走り出した。
「高杉さんが天井爆破なんてするから!」
「仕方ないだろう!?」
二人はそんなことを言い合いながら崩れる洞窟をひたすらに走る。次々に降ってくる瓦礫を高杉は爆破したりプロトアラハバキで破壊して回避していく。
そうしないうちに光が見えてきた。
「出口だ!」
少ししか潜っていなかったはずなのに外への光が眩しく見える。だが、落ちてくる岩によってどんどん出口への道が塞がれていく。
「さすがに生き埋めは面白くないぞ……! そうだ!」
「!?」
高杉は手を引いてたマスターをそのまま引っ張って横に抱えると跳躍した。
素早くプロトアラハバキを召喚、コックピットではなくその腕に飛び乗る。当然バランスを崩したプロトアラハバキは倒れそうになるが、
「――TAKASUGIパンチ!!」
その前に飛び乗った腕がロケットパンチとして勢い良く発射された。
「うわああああ!?」
「はははははは!!」
マスターの悲鳴と高杉の高笑いが洞窟に響く。ロケットパンチはぐんぐんスピードを上げて洞窟の出口から飛び出していった。
洞窟から脱出してすぐ、高杉はマスターを抱えたままロケットパンチから飛び降りる。少しして洞窟とその反対側から爆発音が響いた。
「いやー流石に今のは危なかったな! まさに危機一髪だ!」
「し、死ぬかと思った……」
地面に下ろされたマスターはげっそりしているが、正反対に高杉はニコニコしている。だが、二人とも共通して安堵の表情も浮かべていた。
「ロケットパンチに乗って脱出するというのはいいアイデアだったな。うん。流石は僕」
「次はもうちょっと穏便にお願いしたいです。……でも助かったよ。ありがとう」
マスターは息を整えつつ、すっかり崩れてしまった洞窟を見やる。プロトアラハバキが潰れてしまったためだろう。何やら焦げ臭い匂いと煙が見える。
「あー、完全に瓦礫の下だな。まぁ僕らが潰されるよりはマシだ。ロボットは修理したり作り直したりできるが、人間はそうはいかないからな。君、怪我はないか?」
「大丈夫だよ。高杉さんのおかげ」
土埃にまみれた見た目に反して大きな怪我はない。高杉はそれに安心したように笑った。
対して高杉は深手ではないとはいえ、ところどころ怪我をしている。普段結んでいる髪も解けてしまっていた。
「さて、聖杯も回収したことだしそろそろ帰るとしようか」
「そうだね……通信も……」
通信用の礼装を操作するが、ノイズが走って繋がらない。大抵は聖杯を回収したら復旧するので、まさか脱出時に落としたのかと確認するがちゃんと聖杯は回収できている。
「海辺まで出れば電波がよくなるんじゃないか?」
「そんなスマホじゃないんだから……」
礼装の仕組みはよく分かっていないが、少なくとも電波は関係ないはずだ。それでも森の中にいるよりはマシだろう、という高杉の言葉にうなずいて移動することにした。
powered by 小説執筆ツール「arei」