鳥の子2


彼女の容態は深刻で、金輪際治る見込みはないと言われた。まあ当然だろう。寝たきりになった彼女はベッドの上でヘラヘラと浮ついた笑みを浮かべているが、その瞳はどこか虚ろだ。誰とも交わることのない、どこか遠くを眺めて、白天井の向こうに何を見ているのだろう。
ユートピアの花畑まであとどれくらいかな。道中には接点のない建物や景色が沢山あって、すれ違う人たちはみんなわたしのことなんて見えてないみたいに、誰かとずっと楽しそうにしている。今わたしの隣では、頭から爪先まで真っ白の大人が、わたしより背の高い少年を見守っているの。彼はこの人たちからケーキを用意してもらったことがあるのかな?
最近ね、多分わたしも、この人たちとあんまり変わらないんじゃないかって考えるようになったの。
みんな自分の好きなことが好きで、大切で、楽しくて、それ以外は全部どうでもいい。嫌いなことを嫌いって言うこともやめちゃって、好きなもの以外に興味を持てない。だから視界に入れる必要もなくて、わたしはたまたま道すがらすれ違う彼らのことが気になるから姿を目で追ってる。でもわたしはそれ以外の、ここにいない人たちのことは全然見てなかったの。拍手で迎えいれてもらうのだって、行為だけを期待して、みんなが誰でどんな顔をしてるかなんて一つも知らない。
これをきっと、利己的って言うんだ。じゃあ彼らもみんな利己的なのね。でもわたし、やっぱりそれでもいいって思う。もしこれが全部横暴だったとしても、だからこそ黙認されてることってあるはずだから。
わたしがシキ以外いらないって世界中の人間をみんな殺してしまわないのは、結局シキ以外が、わたしが好きな人以外が本当にどうでもいいから。わざわざ殺意を向けることは興味を持ってる証拠。だからね、あなたもまだわたしに興味を持ってくれてる。
その理由は簡単。今も死んだわたしを見てるから。

次の次。もっと先の、花畑まで。手を繋いで、歌を歌って、ずっと幸せでいるの。
あなたが笑ってくれればそれでいいなんて、もう二度と言えない。わたしが笑っていられるならそれでいい。
でもね、でも、あなたも笑ってくれたらいいな。

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