妖怪、恋のから騒ぎ(全年齢版)




【付喪神御意見番・流離う竜の太刀】

 ……どうかなぁ。それを言ったら俺も南泉も、もう自分の|死《いのち》は背負えなくなったことになるよ。だってそうだろ? 俺は|先《・》|生《・》を。南泉は|彼《・》を。叶う筈のなかった|夢《もしも》の残骸であったとしても、俺達は殺してしまった。話してはくれないけど肥前や和泉守もきっと、あの時同じようなことをしてきたんじゃないかな。己の意志、責務の為に奪った命に|尊厳《いみ》なんて、端から持っちゃいけない。持ったらその瞬間、俺達は武器として立っていられなくなってしまう。だからそもそも、そういうモノは持てないようになってる筈なんだよね、俺達は。そういう風には、|鍛錬《つく》られていない。それがヒト型の|肉体《うつわ》を持っていてもヒトそのものではない所以……なんじゃないかな。これが人間だったなら、とうの昔に精神が崩壊している所だろうさ。

 でも君は、夢に現れた妖の大包平を殺したことで、ココロが耐え切れずに決壊してしまったんだよね? 可笑しいんじゃないかなぁ、それ。多分、順序が逆だよ。|コ《・》|コ《・》|ロ《・》|が《・》|耐《・》|え《・》|切《・》|れ《・》|ず《・》|に《・》|決《・》|壊《・》|し《・》|た《・》|か《・》|ら《・》、妖の大包平は君のココロが壊れたことに気付いて夢に現れ、君は誘われるままその大包平を殺してしまったんじゃないのかい? だって、言われたんだろう? 『お前が乞うから会いに来てやったぞ』って。

 きっと君は既に、|刀剣男士《武器》として破綻してしまっているんだろう。
 |付喪神《神》としても、堕ちてしまったかもしれない。
 けれど|ヒト型の器《人の理》が邪魔をするから、|妖怪《つくも》にも戻れない。

 君は何をどうしても譲ることができない、ただひとつの【特別】を生み出してしまったんだ。黒にも白にも染まれない、|灰色《どっちつかず》になってしまった。……ははっ。そう言われてみれば確かに、今の君はまるで|人《・》|間《・》|み《・》|た《・》|い《・》だ。それが大包平の呪を呑み込んだ、代償なのかもしれないね? 呪の上澄みだけで中てられて血反吐吐いてた俺としては、あんなもの呑み込んでその程度で済んでる君が怖いところだけど……いや、違うな。君には耐えきってしまうだけの芽があったから、それだけで済んでるってことなのかもしれない。それをモノであるという軛から解放されたと取るか、モノであり続ける為の箍を失ったと取るかは、君次第だぜ。

 ……ああ、だけどさ。
 その芽が、恋ってのがどんなものなのか。俺には分からないけれど。
 例えヒトでも、生き物でさえなくたって。
 |恋をして《ユメを見て》はいけないなんて決まりは、無いと思うよ?



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