妖怪、恋のから騒ぎ(全年齢版)
【付喪神御意見番・無辜の妖刀】
ハイ? ヒトがヒトを殺す理由を知っているか……デスか?
我々がやっている戦争、殺戮という意味ではなく。……殺人、という意味で? huhuhu……山姥切国広、面白いことを聞きマスね? 知っての通り、ワタシは数多のヒトから『妖刀』と呼ばれているモノデス。故にヒトが抱くその手の感情! ワタシよォく知っていマス! ワタシは刀工が生み出した刀の集合体。そういうイケナイコトに使われた|経験《きおく》も、ワタシには山のようにありマスから!
ヒトがヒトを殺す理由。そうデスね……簡単に言えば、ココロの許容を超えてしまうんデス。憤怒でも、憎悪でも。悲哀でも焦燥でも恋情でも感情であるなら何でも構いまセン! 相手に抱く感情がココロで受け止めきれる量を超えてしまうと、ヒトは自分の中から相手の存在を消さずにはいられなくなりマス! 縁を切ってすっぱり別れ、相手の姿が目に映らぬよう物理的に距離を取る……。相手を自分の中から消し去るには、色々と方法がありマスが。その極端な例が、殺人デスよ。己が今まで積み上げてきた|人生《モノ》と相手の|尊厳《いみ》を天秤に掛け、それが己に傾いた瞬間……ヒトはヒトを殺すんデス。それは間違っても殺す相手や他の誰かの為などではありまセン! 自分のココロを守る為デス! 防衛本能、という奴デスね。だから|建前《動機》はあっても|理由《本音》なんて、相手を殺した人間にはそもそも持つ必要がない。そのヒトの中で【どうあってもコレは消さねばならない】という理論はとっくに成立していマスから。……勿論、それは正当防衛とは言えませんヨ? 人間とは自分のココロを守るだけで精一杯な、か弱い生き物デス。自分ひとりの|死《いのち》程度しか背負えない生き物に、相手の|死《いのち》まで奪って背負うのは土台無理! ……というものでショウ? だからヒトが殺せるヒトとは本来、一生の間に|一人《じぶん》だけ、なのでショウね? 己の死を背負えるものは、己のみ。元より背負える筈の無い|死《いのち》をそれ以上に奪うなら、それはもはや|尊厳《いみ》の無いモノになりマス。それこそが所謂、我々のやっている所の|殺戮《しごと》であり。戦争、というものデス。……まぁ? 我々刀剣男士とは? 須らく屍を積み上げることが役割の死神集団デスので? 他の方々がどう思うかは兎も角、ワタシ個刃としてはいくらでもバッチコーイ! な訳デスが。
―――では殺人を嗜好している場合はどうなのか、デスか?
好き好んでヒトを殺すヒト……それはもはや殺人『鬼』というひとつの災害では? ホラ、災害はある日突如として無差別に襲ってくるモノ。万一に備えることは出来たとしても、発生そのものを防ぐ……なんてコトはできまセンよね? 鬼とは病を招き、雷を起こし、嵐を呼ぶ災厄。朝廷、権力者に仇なす末路わぬ者という意味も確かにありマスが、こと鬼の字を掲げるモノはその大半が禍の象徴デス。天災に善悪など問える筈も無し。ましてや巻き込まれた者に責任など在る筈も無し。殺されるならそれは只、間が悪かっただけのことデス。天運が尽きていたに過ぎないでショウ。
……それにしても山姥切国広、一体どうしたんデス? 今ワタシが話したことは全てヒトの理における考え方デス。ワタシたち、「|敵《モノ》は斬ってナンボ、ヒトは殺してナンボ」の刀には全く当て嵌まらない理論デスよ? 今更そんなコトを気にするなんて……huhuhu、貴方|人《・》|間《・》|み《・》|た《・》|い《・》デスね?
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