妖怪、恋のから騒ぎ(全年齢版)



【付喪神御意見番・霊剣の名を賜った打刀】

 ……はぁ。
 本当に世話の焼ける奴だな、お前は。これだから朴念仁の相手は嫌なんだよ。答えなんてもう自分の中にあるだろう。それでも俺に聞かなくちゃ納得できないとは……存在そのものが俺に対する嫌がらせなのか? けれどお前が俺を基にして生まれたモノである以上、放っておくわけにもいかない。呪の落ち度があるとはいえ、このろくでなし男のお守りを彼にばかり任せておくのも酷だ。名を同じくする俺にも監督責任はあるだろう。持てる者こそ与えなくては、ね。

 いいかい?
 これはお前がこの本丸の刀達から散々聞いて回った話と何も変わらない。
 誰も彼も、同じ話しかしてくれなかっただろう? 
 残念だけど、俺だって彼らと同じ話しかしてやれないんだ。
 ヒトじゃあるまいし、俺達にそれ以外の答えなんか出しようがないのだからね。

 確かにお前が彼に抱くその衝動は、ヒトにとっては明確な悪に違いない。けれど俺達は刀だ、ヒトじゃない。……ああそう。お前、とうに壊れているのだっけ。あのねぇ、そんなに心配しなくたって|神《お前》はヒトになんか成れやしないよ。ヒトは成りたいと思って成れるものでも、そもそも成るものですらない。|想像する《ユメを見る》のは自由だろう。それは俺達付喪神を形作る源泉であり、全ての知性あるものに与えられた特権でもある。けれど俺は、付喪神になるべくして授かったものを自ら棄てるなど、絶対に赦さない。それは俺達が辿ってきた歴史そのもの、それがなくては、俺達は己の存在証明ができない。俺達が守っているものは人の歴史だ。けれどそれは、譲れない自分自身を守っていることと同じなんだ。失っても構わないものなんて、何一つとしてないよ。それは俺とお前が、共に人から賜った『名前』だってそうだ。お前がどんなに苦しかろうと関係ない、俺達器物に名を棄てる自由などない。それを誉と取るか呪と取るかに関してはお前の心次第だけど……ふふ。元より呪と取っていたら、お前はきっと初めから時間遡行軍側に付いていただろう。刀剣男士になど、なっていないね。

 それからこれは、とんだお節介であることを承知で言うけれど。精々、|縁《よすが》は大切にすることだ。

 愛しいモノを守り、共に在り続ける。
 それがどれほど困難なことか、お前は知らない筈がないだろう?
 それだけはヒトでも、ヒトならざるモノでも変わらない。

 ……それはこの衝動と両立させられない、だって? ッああ全く、お前だったら放っておいたって正しい結論に辿り着けるだろうに……! 『写し』という言葉に、いつまでも甘えているんじゃないよ!

 ―――これだけは覚えておけ、山姥切国広。
 例えお前が、お前自身の行いを、その衝動を『悪』と断じようとも。
 『善』なる者であろうとしてはいけない理なんか、ないんだよ。



次へ

powered by 小説執筆ツール「notes」