妖怪、恋のから騒ぎ(全年齢版)
【付喪神御意見番・悪鬼を断つ鬼神の太刀】
お前が何に対してそこまで悩んでいるのか、おれには分からん。あいつが好きなら好きなだけ、斬り合ってくればいい。それだけなんじゃないのか。……無茶を言うな、と? いくらこうしておれ達がヒトのカタチをしていたとて、おれ達はヒトそのものではない。どれだけヒトの真似事をしようと、ヒトには成れん。当然だろう、刀というモノは、斬る道具だ。その刀に出来ることなど、斬る以外にあるものか。主の為に敵を斬るも、斬りたいと想うモノを斬るも、そこに然したる違いはない。それはあいつも重々分かっていることだろう。
……何、そう案ずるな。お前は鬼になど成らん。この本丸の誰ひとりとて、そんな心配はしていない。鬼でないモノが鬼に成る瞬間、それは【己が己である】という自覚を失くした時だけだ。お前の場合は逆なんだろう。自覚があり過ぎる。奔放など論外。しかして我慢のし過ぎも良くはない。それは何事においても変わらん、過ぎれば毒というだろう。
……何? 言っている意味が分からん?
……むぅ、おれは喋るのが苦手なんだが。
いいか。欲望とは悪ではない。
忌避すべきは、その欲望に呑まれることだ。
鬼はその時、顕れる。
己の裡にある欲望とどう向き合い、どう付き合うか。
肝要なのはそれだけだ。
次へ
powered by 小説執筆ツール「notes」