妖怪、恋のから騒ぎ(全年齢版)
これまでとは全く違う意味で、最低な夢だった。全身が鉛のように重い。目が覚めてからしばらくは、腕を上げるどころか指一本もまともに動かせなかった。大包平を抱きしめて下敷きになっている腕が痺れているから、だけではないのだろう。どこまで行っても、夢と現実は地続きでしかなかったとは。そりゃあこれなら|刀《じぶん》だって、其処等に放り投げてあった筈だ。
……否、それよりも酷いのは現実の恋刀よりも、夢の妖を先に抱いてしまったことだろう。明け透けにも程度がある。夢での己は一体どこまで欲望に忠実なのか。寝具も寝間着も汚していない、それだけが救いだった。……というか下肢が汚れていないのは多分、夢だからではないのだろう。いくらでも与えると言いつつ、持っていくものはしっかり持っていく。確かにその方が対等で、ずっと良いのだけれども。問題はあいつが言った通り、現実の己は霞を喰らっていたも同然であるということだった。まるで欲は満たされることがない。厄介なものだ。
「ん……ぅ、ッ」
大包平の微睡む声がする。腕に抱いて寝た恋刀はまだ夢の中だが、その様相はひどく無防備だった。何度も身じろいだのか、寝乱れて湯帷子の襟元が大きく開けている。首筋は元より鎖骨も、しっかりと鍛えられて盛り上がった胸部までもがあられもなく覗いている。心なしかその頬が赤らんでいるように見えたのは、気のせいだと思いたい。昨夜のなまなましい夢が、脳裏に過った。小袖を剥いで、汗の滲む艶やかな肌を、執拗に撫でまわしたことを。晒されたその喉骨に何度も噛みついたことを。国広はごくりと生唾を呑み込んだ。腹の底に集まり始めた熱をどうにか無視して、恋刀の首筋に顔を埋める。鼻先で直接感じる、大包平自身の匂いに混じって仄かに芳る汗。目を開いていると、視界がぐるぐると回り始めてしまいそうだった。じゃれ合いながら眠った昨日の夜が、もう、あんなにも遠い。
妖のあいつが、動く気力もなくなる程精気を吸い尽くしてくれて助かった。これで今すぐにでも起き上がれたなら間違いなく、国広は眠る恋刀を滅茶苦茶に犯していた所だろう。殺すも犯すも、悪逆であることに変わりなどない。結局何も、解決出来てはいない。抱えた欲望を自覚すればする程に、抑えは利かなくなっていく。早く起きて俺から離れてくれと願いながら、国広は堪える様にぎゅっと目を瞑った。
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