妖怪、恋のから騒ぎ(全年齢版)




【付喪神御意見番・土方歳三の脇差】

 ―――ああ、そっか。
 どうしたらいいか、わかんないよね。兄弟のそれとは違う感情だけど、僕も兼さんも、たくさん悩んだよ。……でも兄弟のそれは、本当に誰かに止めて欲しかった? 大包平さんが昏睡状態だったあの時も。「兄弟だけは会っちゃ駄目」って、僕に言われたかった? きっと僕や皆が全力で止めたとしても、兄弟は全部振り切って大包平さんへ会いに行ってたと思うなぁ。兄弟のそれは、僕はまだ抱いたことのない感情だけど……簡単に抑えられるものじゃない、ってのは分かるよ。だって兄弟が|あ《・》|の《・》|ひ《・》|と《・》の以外のことでそこまで思い悩んで、苦しんでいる所、初めて見たから。でも僕は贖罪を求めるように死に場所を探すよりは、ずっといいと思う。

 ねぇ、兄弟。これって僕ら皆人間みたいな身体を持って、人間みたいな暮らしをしているからかもしれないよ。だって肉体がなかった頃は【悩む】なんてことがなかったじゃない。

 |僕ら《刀》はただ何かを斬るための道具に過ぎなくて。
 或いは誰かの目を癒し、楽しませる、美術品でしかなくて。
 権力の保持を象徴する、宝でしかなかった。
 人の心を鏡の様に写す、誰の手に渡ろうと変わることのない。
 僕らはただ、誰かが持っていただけのモノ、そこに在っただけのモノだ。

 それが肉体を持たされたことで、僕らは誰かの為に動き、自ら戦い、斬ることが出来るようになった。その代わりに、戦って斬る為にどう動くかを自分で考える必要が出来た。当たり前だよね、動く為には考える必要がある。ただ時の流れに身を任せるだけだった付喪神の頃は取るに足らなかった筈で、気にも留めなかった筈のことを、これでいいのかと考える様になってしまった。ヒトではないのに、価値観が付喪神からヒトに傾いてしまった……のかな? どんな|感情《こころ》にしても、道具にそれを持たせた時点でそれは、|大きな間違い《エラー》なんだと思う。……でも僕は、持たなければ良かったとは少しも思わないよ! 兼さんのお世話やお手伝いが出来ることも、こうして兄弟と一緒に過ごせることも。ただそこに在るだけのモノだったなら、叶わなかった。

 例えこれが間違いであったとしても、その全てが悪い訳じゃない。
 だからどうか、初めて抱いたその葛藤を、否定しないで。

 その葛藤はヒトとモノ、神と妖、その狭間にある僕達にとって、絶対に必要なものだと思うから。きっとどんなに苦しくても、持ち続けなければならない心なんだよ。




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