妖精の友と暗黒騎士





「っ……」
「あっ! ラハも目を覚ましたわよ!」

 浮上した意識に伴って目を開けると、オレを覗き込んでいたらしいアリゼーと目が合った。
 安堵したようにパッと笑顔になると、振り返って誰かに報告する。
 その視線を追うと、同じく安堵した様子のアルフィノとヤ・シュトラ。それから、ベッドから身を起こしてこちらを見ている、マリィが居た。

「マリィ! あんたこそちゃんと目を覚ま、うわっ?!」

 慌てて起き上がり身を乗り出したら、完全に現在地を見誤って転がり落ちた。
 どうやら、部屋のソファに寝かされていたらしい。そりゃそうか、ベッドはマリィが使ってるんだから。
 何やってるのよ、なんて呆れた声のアリゼーの手を借りて、改めて起き上がる。

「二人とも、身体に異常はない?」
「ああ、問題ない」
「ええ……、流石に数日寝ていたからか、少しだるいけど」
「それくらいで済んだなら良かったわよ。私達なんて、しばらく真面目にリハビリが必要だったもの」
「す、すまない……」

 その原因になった身としては、それを取り上げられてしまうと謝るしかない。
 別に責めてる訳じゃないわよ、なんてアリゼーに突っ込まれるまでが一連のお約束となりつつある。

「本当に、心配をかけてごめんなさい。ありがとう」
「いいのよ、普段は貴女に助けられてばかりなんだもの。たまには借りを返しておかなきゃね?」
「そうだとも。君の支えになれるのなら、とても喜ばしいものだ」
「ここのところ忙しく駆けずり回り過ぎだったもの。思いがけず、いい休養になったのではなくて?」

 皆、結果良ければ全て良しとばかりに笑う。マリィにあまり気を揉ませたく無いのだ。どれだけ心配したのかと、表明する方が負担になる。
 それから、アルフィノとアリゼーはサンクレッドやウリエンジェにマリィが起きたと報せに行く、と駆けて行き。
 ヤ・シュトラは何やら訳知り気な笑顔をオレに向けて、何かあったらすぐに呼びなさいとだけ告げて退室して行った。
 必然、残るのはオレとマリィで。

「グ・ラハ、改めてありがとう、助けに来てくれて。それと、危ない目に合わせてごめんなさい」
「謝らないでくれ、むしろ頼ってくれて嬉しいよ。あんたの為に、出来ることがあって良かった」

 マリィが倒れた時は、気が気じゃなかったけど。役に立てて嬉しいのは本当だ。
 あんたの為に、オレに出来ることがある。助けになれる。こんなに嬉しい事はない。
 勿論こんな事はない方がいいけど。
 一先ず、早く現実の世界でも隣に立って戦えるくらいにならないとな……

「オレに出来る事なんて、ホントあんまり無いけどさ。今回力になれて……本当に嬉しい」
「貴方は謙遜しすぎだと思うけど。そうやって言う以上に、いつも頼もし……、…………?」
「? マリィ?」

 何やら、不自然に言葉が止まった。
 不思議に思い改めて顔を見ると、妙に怪訝そうな顔になっている。それから、自分の胸元をさするような仕草。
 そうして、いつものように数秒、思案の為に瞳を閉じて……また、オレを見た。

「……グ・ラハ。貴方、あの後あの子に何か言った?」
「えっ? ……ていうか、あの中のことってマリィは覚えてるのか?」
「フェオも言ってたと思うけど、あそこに居たボクは今ここにいるボクよ」

 あそこは夢の世界であり、マリィの精神世界であるし、その奥でのことは人が普段は知覚出来ない心の部分。
 だからか、今ここにいるマリィはフレイのことは認識していても、彼がオレに何を言ったのかは知らない様子で、同時にあの子が何を言ったのかも知らないようだ。
 しかし、あそこに居た大人の姿のマリィは、今ここに居る意識と同義であり、それで見たものは覚えている。
 つまり目を覚ます直前、オレの傍に居た小さなマリィに、何か言った可能性は知ってるわけで……

「い、いやその……、それでもあの子が、泣いてたから。あんたは一人じゃないし、家族同然に大切に思ってる人は居るし、オレだって……そうだから、って……」
「……それで」

 やましい事を言ったつもりはない。ただ、寂しがって泣いている幼い少女をそのままに出来なかった。
 しかし、あの子はマリィの心の一部である。しかも深層意識の、知覚はできずとも現在の人格に直結する、根っこの部分。
 そんな存在に迂闊に影響を与えれば……表層人格にだって、何らかの変化が現れてもおかしくはない。
 正にうっかり軽率な真似をしたと言えるのだ、と。たぶん、顔から血の気が引いた。

「す、すまない! あの、何かおかしい影響が出てるのか?! いったい何が……?!」
「……いえ。問題はないと思うわ」
「でも何かはあるんだよな?! 本当に悪い、一体どうしたら……!」
「悪影響ではないし、グ・ラハが放っておけなかった気持ちも分かるし、大丈夫。気にしないで」

 平謝りするオレに、マリィは『問題ない』と答えたが……、いったい彼女にどんな影響が出ているのかは、ついぞ答えてくれなかった。
 結局何があったんだ。要するに、何かオレに対する感覚や印象が変わってしまった、と言う事なんだろうけど!
 ……もし次にフレイと顔を合わせる機会があったら、今度こそ切り捨てられるかもしれないな……




◼︎




正解:『優しいお兄ちゃん』『頼もしいお父さん』的な信頼が唐突に生えてしまった。


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