妖精の友と暗黒騎士
ヒカセンマリィさんのはなし。
漆黒5.3終了直後、もちろん暁月前。
相変わらずマリィ自身の出番少ないんだけど、なんでなん?
視点はグ・ラハ・ティア(すきすきだいすき)
付き合ってない。
いつもの双子もいます。
結局英雄扱いされる事や、家族のことをマリィ本人はどう思ってるのかって話?
夢の世界とフレイの相性が良すぎる……良すぎない?
■
原初世界で目覚めてからこっち、オレは浮かれていた。
いや、能天気にしていていい世情ではないのは、あちらもこちらも同じだ。それは分かっている。
それでも、ああ、それでもだ。
夢にまで見たこの場所に、再びオレは立っている。
眩しい太陽を隠すようにかざした右手の透ける赤さに、思わず口元がほころぶ。
叶わぬ夢のはずだった。本来なら、あちらの私はとっくに魂ごと砕けて消え去り、こっちのオレは……いつかもっと遠く遠くの時代で、やっと目覚める筈だった。
夢みたいだ。いや、実は夢なんじゃないか?
あくまでも水晶公としての記憶は、継承しただけではあるが。我が事として感じられるのだから、そう思うのも無理はないんじゃ無いかと思う。
何回、自分の頬を抓ったことか。その度に、自由に動く手や、柔らかい頬に感動すら覚える。
あんまり頻繁にやるものだから、アリゼーから容赦のない抓りを食らったりもした。いつまで寝ぼけてるのよ、なんて苦笑交じりのからかいも受けて。
そんな風に、暁の血盟の新人としてしごかれているオレの様子を見に来てくれたらしいマリィも、微笑ましそうに見守ってくれていた。
あんたが、生きている。同じ場所に、オレも立っている。これからきっと、共に冒険に行く事だって望むことができる。
ああ、こんな幸せがあっていいのか?!
浮かれて飛び跳ねたいような気持ちになる。全く、いい年して……いや、今のオレはただの若造なんだけども。
そんな浮ついた日々の中、『新たにアラグ文明の遺跡が発見されて、調査を頼まれた』と英雄は話して。オレがアラグ知識の専門家だからと、協力なんて要請されたら。
断れる筈が無い。そうだろう?
「はぁ……英雄がカッコいい……」
「ちょっとラハ。あんまり夢見心地で居ないでよ、調査で来てるのよ」
「わ、分かってるよ。ちょっとこの辺り調べるから、周囲の警戒を頼む」
遺跡の奥底で、何かを守るように配置されていた守護者の機構を退けた後、小さめに呟いたはずだったが、アリゼーに聞き咎められた。
だって、めちゃくちゃカッコ良かったんだ。
第一世界に居た頃に同行した時は、オレが護り手を担当したんだけれど。今回調査に一緒に来てくれたのは、アリゼーとアルフィノ。
優秀な癒し手と攻め手の二人が居るのだから、当然オレかマリィのどちらかが護り手を担当する事になり、未だオレの訓練も完了したとは言えないとアリゼーに指摘されてしまい、結果珍しくマリィが護り手をする事となった。
以前、クリスタルタワーの調査の時、騎士として盾を持っている姿を見たことはある。
けれど、今日の彼女は身の丈程もある大剣を手にしていた。その技術がある事は知っていたが、目にするのは初めてだった。
見たことのないそれが、めちゃくちゃ頼もしくてカッコ良かったのだ。戦闘中は見とれないように勿論気を張っていたが、終わった後に反芻するくらい、許してほしい。
「でも確かに、マリィが大剣を持ってるのって初めて見るかもしれないわ。どこかで縁があったの?」
「ええ、イシュガルドに居た時に。案外、性に合ってるのよ」
「……こちらに戻ってきて、情報を精査している時に小耳にはさんだ噂なのだが。もしや、イシュガルドで追われる少女を守った異端の騎士というのは」
「あー……噂になっちゃってたのね。あんまり目撃者は居なかったと思ったけれど」
「また知らない間に色々な事に首を突っ込んでるのね。各地に現れた有能な冒険者の噂って、全部貴女なんじゃないの?」
「まさか。ボク以外にも、冒険者は沢山いるのよ」
守護者が守っていたであろう何かの残骸を発見して調べつつ、後方の話に耳を傾ける。
雑談をしながらも、3人はきちんと周囲の警戒をしてくれているだろう。彼女らは歴戦の戦士なのだから。
オレはオレの役目を果たさねば。
「では、再びアラミゴに星導教を広めようとやってきたモンク達の指導をしていたというのは」
「それは……ボクね」
「リムサ・ロミンサから盗まれた宝物を取り戻さんと、クガネで活動していた忍者は」
「ボクも居たわね」
「アラガーナに慰問に訪れたという踊り子の一座は、サベネアからの来訪だったとは聞くが」
「縁があって参加してたわ」
「やっぱりマリィじゃない……。……って、待って?! 貴女、踊り子とかしてるの?!」
「えっ何だそれ、オレは知らないんだが!!」
「私もよ! ねえ、めちゃくちゃ見たいんだけど!!」
「オレも見たい! 絶対カッコ良いヤツだ!!」
「君たち……」
聞き捨てならない内容に、思わず振り向いてしまった。
モンクや忍者の技術を持っていることは知っている。以前にも聞いたことがある。
だが、踊り子っていうのは完全に初耳だが?!
案外彼女は自分の衣装を気にする。勿論実用性重視ではあるが、他人から見ておかしな恰好ではないか。英雄と呼ばれるようになってしまった故に、周囲を幻滅させる姿はしていないか、と。
華美に飾る訳ではないが、少なくとも子供の夢は壊さないようにしているようで、つまりは踊り子としての研鑽をしたなら、それらしい衣装は用意したはずで。
確実に、それはウルダハに居るような過度な露出のものではない。その理由の詳しい所は思考さえも控えておくが。
そもそも単なる踊り子の技術を彼女が進んで得る筈もなく、武術に通ずる物だろう。
つまり……絶対カッコいい。断言出来る。
「ええ、まあ、機会があったら」
「それっていつ?!」
「うーん、暁の皆って、距離を置いて戦う人が多いから。ボクまで遠距離になってしまうと、ちょっとバランスがね……」
「オレは気にしない! 盾役を任せられると思ったら、遠慮なく頼りにしてくれ!!」
「そうよ! 前に出る攻め手が必要なら、私だってそんなようなものだし?!」
「……グ・ラハ。調査の結果はどうだったんだい?」
「あ、すまない」
オレとアリゼーの勢いに引き気味のマリィに詰め寄っていたら、呆れ顔のアルフィノに聞かれてしまい、正気を取り戻す。
そうだ、そもそもやるべきことをやってからだ。
こほん、と咳ばらいをして仕切り直す。アリゼーももう少し押せばいけるんじゃないか、という気持ちでいるのかチラチラとマリィを見ているが、それ以上話を続ける事は我慢したようだった。
「見たところ、何か……蛮神か、あるいは妖異か。そういうものを封じてあったみたいだ」
「中身は?」
「オレ達が来るよりも前に停止して開いていたらしい。封印機構に中身のエーテルを抽出する機能もあったようだし、もう消滅したか、搾り取れないくらいに摩耗してしまったかしたんじゃないかな」
「って事は、一時的に利用された魔物か妖異か……、蛮神だったならテンパードが全て居なくなって自然に消えたか。ってところかしらね」
「ああ。少なくとも、大きな脅威は無いと思う」
「それなら良かったわ。他の調査員達も、安心して入ってこれるわね」
これで、中身がまだ健在で、封印を解除した瞬間に長年の恨みを募らせた何かが解き放たれるというのならば、まだまだ対応が必要だっただろうが、今回はそうでもない。
封印機能も昨日今日停止した訳ではなさそうだし。オレ達が来る前に、とっくにその役目を終えた施設だったというわけだ。
これなら、中に巣食っていた魔物や、防衛施設さえ無力化してしまえば、後は専門の調査隊に任せられる。オレ達の仕事は、ここまでだ。
そう結論付けると、アリゼーとアルフィノはこの遺跡を後にするべく踵を返し、オレもそれに続くべく歩き出す。
こういう時、皆の背を見るような形で最後に歩き出すのは、いつもマリィだ。
オレ達の安全を確保しようとしているのか、もしくはオレ達では分からない、何かを感じたり聞いたりしているのか。理由はその時それぞれのようだけれど。
そうして、オレがマリィの真横を丁度通り過ぎようとした、その時。
「グ・ラハ!!」
「えっ……」
唐突に、名を呼ばれた。
それだけではなく、思いきり突き飛ばされた。
全く構えていなかった事態に、思わずしりもちをつきながらも、視線を上げる。
一瞬前までオレが歩いていたその場所に、代わりになるようにマリィが居た。油断なく、再び大剣を構えて。
そんな彼女に覆いかぶさるように、黒いエーテルが広がっている。
エーテルが自身に触れるよりも前に、淡く光る障壁が展開されていた。たぶん、マリィ自身が発動させたもの。
殆ど同時に、更にアルフィノが咄嗟に張ったらしい魔法の障壁も、間違いなく間に合っていた。
大概の攻撃ならば、物理的なものでも魔法的なものでも、致命に至らないほど軽減されていたと、確実に思えた。
だが、黒いエーテルは幾重に張られた障壁を無い物のようにすり抜けて、彼女の身体に直接届き、覆い隠し……ほどなくして、跡形もなく消滅した。
それは、霧のように消えたのではなく……身体の中に吸い込まれていった。そういう風に見えた。
1秒か2秒か、沈黙の時間が流れた後。
最初に響いたのは、ガランという大きな金属音。マリィの手に握られていた、大剣がその場に落ちた音だった。
それから、ぐらりとその身体が揺らぐ。
「マリィ?!」
「ちょっ……?! アルフィノ!!」
「任せてくれ!!」
咄嗟に腕を伸ばし、彼女を抱え込む。体格の差があるものだから、立ったままは維持出来ず、床に倒れこまない程度に支えられただけだが。
アリゼーは今の黒いエーテルがどこから来たのか、追撃はあるのかと周囲を警戒し、アルフィノはすぐに意識を失っているマリィに治癒の魔法をかけ始める。
しかし、見たところ外傷はない。無論、直前に戦闘があったから多少の手傷はまだあるが、意識を失うには程遠く、たった今のエーテルだって衝撃を生んでいたようには見えなかった。
アルフィノもすぐに傷の治癒から、毒や呪いの解除の魔法に切り替えた。
オレも続けて、同じように癒しの魔法を発動させるが……、なんだ?
全く手応えがない。傷や不調は感じないし、除くべき異常が見つからない。
まるで、単に眠りに落ちているだけのようだ。勿論、そんなはずがない。
きっと同じ所感なのだろう。アルフィノと視線を合わせ、ここでは正確な治療も診断も難しい、と頷きあった。
幸い、脈や呼吸に異常は無い。今すぐに命を失う事だけは無いだろう。
「アリゼー、周囲に異常は」
「無いわ。マリィはどうなの?」
「正直、分からない。ただ眠っているようにしか思えないが……そんな筈がない。何か、厄介なものに取り憑かれた可能性が大きい」
「すぐに戻ろう。オレが運ぶ」
「頼むわ。とりあえず、私は外の調査員達に報告して、もし調査でさっきの何かの情報が得られるなら教えてって伝えてくる」
遺跡の入り口へと駆けていくアリゼーを見送り、アルフィノは取り落とされていたマリィの大剣を拾い上げた。
落ち着いて容態を見るならば、石の家に戻った方がいい。方々に伝手のあるタタルも、治療の腕の確かなウリエンジェやクルルも居る。
抱きかかえていたマリィを、背負う形にしてから立ち上がり、アルフィノと共に転移の魔法を唱えた。
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