泡沫の旅路
⬛︎ モカの過去について
旅の一座で育てられた孤児。一座と共にウェナ諸島の各地を巡りながら、一流の旅芸人になる為の修行に励んでいた。
一座がジュレットの町を訪れた際、モカは三人組の冒険者に出会う。彼等の旅に興味を持ち一座を離れ彼等と共に旅に出るが、とある遺跡に封印されていた宝石を見つけた事をきっかけに三人の仲間は帰らぬ人となってしまう。
仲間を失い心を閉ざしたモカは、モシャスで最も大切にしていた友人の姿を借り、彼女の旅の目的を果たすべく一人旅を始める。
=== story =================
ある所に、薄暗く湿った遺跡を探索する四人の冒険者達がいました。
彼等の中で最も好奇心が旺盛だった旅芸人の少女は、遺跡の奥に隠されていた小箱を見つけました。蓋を開けると、中には煌めく深藍色の宝石が佇んでいました。その美しさに惹かれた少女は、思わずその手を伸ばしてしまいます。
少女が手にした宝石は、かつて魔族がヒトを滅ぼす為に宝石魔術で作った「呪い」でした。その真実を少女が知ったのは、彼女を呪いから庇った少年が目覚めた後でした。
少年はパーティのまとめ役としてメンバーから最も信頼されていた僧侶で、呪いの扱いに長けていた人物でした。
彼は旅芸人が宝石を手に取ろうとした時、一早く危険を察知し、旅芸人が受ける筈の呪いを肩代わりしたのです。そして素早く的確な判断で自ら応急処置を行いました。その結果、数日後に僧侶はいつもと変わらない様子で過ごせる程に回復し、ひと月後には冒険を再開する事ができました。
彼の親友であった戦士の少年と、彼等の幼馴染みの魔法使いの少女は、二人が無事で良かったと安堵しました。
その後いつもと変わらぬ冒険を続ける中、旅芸人は僧侶の異変に気付きます。僧侶は完全に呪いを払い除ける事ができておらず、彼はその身に苦しみを抱えながら冒険をしていたのです。旅芸人はすぐに仲間にそれを知らせようとしましたが、僧侶はそれを止めました。
「この程度の呪いであれば、そのうち自然に浄化される。だから、この事は皆には内緒にしておいてくれないか」
彼は仲間に心配をかけさせたくないのだと、旅芸人に言いました。旅芸人は彼が戦士を大切に想っている事も、彼が魔法使いに特別な感情を抱いている事も知っていました。それに彼が呪いを受けた理由は他でもない自分にある為、彼の頼みを断る訳にはいきません。
旅芸人は彼の想いを尊重しました。
もう彼の耳には、彼を取り込まんとする悪しき呪いの言葉しか聴こえていないという事を知らないまま……
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