鳥の子 - Babél


Fiktisidonta.
断言的陳述。


藍の君は比較的拘束が緩い天師様の天子であった。後一年で元服するほどまで大きくなられた現在、先に元服を迎えた青年は仕事間に彼女の徘徊姿を目で追っていた。何度か仕立て直されたお引摺りを、変わらず尾のように揺らしながら歩く御姿は、あどけなさの核心に桔梗が華開くようであった。
守人には多くの規則がある。天師様の名を呼んではならない。天師様は絶対である。
親愛なる鳥の子に、御手の一つも触れてはならない。
天師様の寵愛へ、下位に座する人間の手垢をつけることは許されない。髪の一房、既に切られた後の爪、如何なる残物も全て神聖なる身から剥がれた欠片である。なんと美しきかな、鳥の子は既に天高く祀りあげられる身と成られたのだ。
青年は鳥の子に幾許かの恋慕を抱いていた。四つか五つの頃に悪霊から守ろうと手を引いた畦道は、既に新たな区画の線を引かれてしまったが、今も尚畦道はそこにある。鳥の子がまだ幼き怜家の少女であった頃より、青年は彼女に惹かれていた。
御手を触れることは二度となくなってしまったが、その麗しき御身を最期までしかと見届けようと、若人の中でも一際張り切って天守閣へ奉公するようになったのだ。なんとも疚しき下心である。結果、未だ青年は鳥の子から声をかけられることはなかった。元より視線のひとつも噛み合うことなく、それはただ青年が一人の守人である事実を淡々と告げるばかりであった。
虚しさとは常に付き物である。人が欲を満たすことは無い。というのも、欲求とは常に膨れ上がるものを指す。青年はどうにか鳥の子から、彼女の記憶を結びつけてやりたかった。

守人の職務は多岐に渡り、常に多忙の身である。上階の御住いに在られる天師様は皆気難しく大層高貴な身分であらせられるし、もう二度と御姿を現さなくなった鳥の子も少なくない。藍の君が何よりも、誰よりも特殊な御人というだけの話だ。
守人には、食事から洗濯、都度求められる細々とした要望に二つ返事での迅速な対応が求められる。無論愛想も忘れてはならない。そうして一度悪霊が蔓延れば、何度も頭を地面に擦り付け、天師様の機嫌を損ねぬよう頼み込むのである。
【以降、一切の観覧を禁ず】
此が何よりも辛いのだ。天師様は絶対とあるが、その力が恐ろしいだけだ。昔に天師様の上へ立てたなら、人間の守衛となるは天師様であったはずだ。鳥の子も気に入らぬ。見染められただけで、どうしてここまで格差が生まれる?――全て塗り潰された黒線――
歪んだ文字 引き裂かれている
Leikkaa pois ajatukset, jotka kapinoivat minua vastaan.

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