鳥の子 - Babél
其の家に純白の羽根が与えられてからというもの、天守閣はまた一段と活気を増した。守人がせっせと丈を直した着物は、それでもまだ鳥の子の足を覆い隠してしまったが、天師様は叱らなかった。天師様のご機嫌を損ねなかったことで、ようやく守人の背に伝う冷や汗が止まる。
その後はもう、蚊帳の外であった。
彼女のまだ幼い口内に流れる唾液が初めて一人のものではなくなった頃、彼女はその身に余る栄誉を授かった。
誉れ高き鳥の子は、天師様の祝福により、その身は決して穢れることはない。痛みも熱もなく、鳥の子の腰元に下翼が芽生えた。天師様の四つ翼は二つに減ってしまったが、それは即ち、体外に御身が在るのと同じだ。天師様はより尊き御方となった。此れ迄よりもずっと、彼の御仁をぞんざいに扱ってはならない。
Seuraavana päivänä sisään suodattuva aamuaurinko muuttuu hänen luomekseen sen suuren siiven kautta. Ilmiöt eivät valaise linnunpoikaa. Aamu ei saavu sinne, ennen kuin hänen silmänsä heräävät pehmeän, miellyttävän silkin ja vaalean katon alla. Kaikki on ennalta määrättyä.
明くる日に差し込む朝日すら、その大翼が彼女の瞼となる。事象が鳥の子を照らすことはない。肌触りの良い柔らかな絹と、薄色の天蓋が彼女の目を覚ますまで、そこに朝は訪れぬ。全て定めである。
Kesän kuumuutta eikä talven kylmyyttä saa koskaan tuoda linnan torniin. Ei saa tahrata linnunpojan sileitä jalkoja. En sitä salli.
Kumartukaa. Kumartukaa. Kaikki ilmiöt voidaan rajoittaa. Kaikki, mikä yrittää ylittää rajoituksen, on illuusio.
夏の暑さも、冬の寒さも、天守閣には決して持ち込んではならない。鳥の子の滑らかな御足を汚すことがあってはならない。我が許さぬ。
平伏。平伏せよ。あらゆる万象は制限可能である。制限を越えようとする物は全て███だ。
『――貴様がその言葉を捉える必要は無い。無用な知能は捨て去れ。だが尚も未だ脈略を辿り求めたいのならば、貴様により近い言語で話してやろう。
かくも狭く有限な大地では悪霊と呼ばれしHallucination。制圧可能な垃圾。我が結んだ制約により呆気なく瓦解する愚図は、我らに不必要である。
知能があるのならば、今すぐに頭を垂れよ。既に最大限の譲歩を与えてやったのだ。寛大を当然と思い込むならば、早々に立ち去るが良い。我は貴様などに庇護を与えぬ』
鳥の子はお引摺りを長い尾のようにしながら、天守閣の廊下を歩いていた。天師様の言いつけにより、外へ出ることは禁止されていた。守人は彼女が通り過ぎるのを離れた場所でただじっと待ち望み、皆がその閉ざされた口の開くところを恐れた。
幼子の望みは即ち天師様の望みである。絶壁に生まれる宝玉が欲しいと言えば、守人は身を賭して献上する義務がある。義務は至高の頂であるが、本心から賞賛を求める者は一人もいなかった。
幸いにも藍の君は無欲であった。鳥の子と成られた日から我儘もなく、幼気な子供の口から発せられる語句に文句が含まれることもなかった。これにより幾らかの守人は職を失わずに済み、天師様から注がれる冷徹な眼差しの数も幾分か減った。流石は鳥の子であらせられるが、守人は決して絆されてはならない。厚意に最大限の感謝を示しながら、ただひたすらに頭を垂れた。
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