02∣鶴蒔氷雨
鶴蒔 氷雨 - ツルマキ ヒサメ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
性別:女性
年齢:28歳
身長:169cm
「なはは。婆さん、そりゃボケが始まったんじゃないか? ……ん? 二歩? う〜む……」
「こら! ヤニ吸ってる時に近づくんじゃない。君の肺が悪くなるだろう。え? じゃあこんなとこで吸うな? そりゃ無理だ。君が離れなさい。しっしっ」
「ほらほら、そ〜れ、ひょいっひょいっ! お〜当たらない当たらない! もう少しっ! あ〜っ、惜しいねぇ〜っ!!」
┃設定
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
焔の師範であり、憧れの撃剣師であった女性。
焔の自宅から一つ橋を渡った先、ボロいトタン屋根のアパートに暮らしている。
夏でも冬でも伸びきったロングTシャツにジャージとサンダル姿。腰まで伸びた黒髪は全く手入れされておらずボサボサで、持っている鞄といえばコンビニで貰ったビニール袋くらいと、およそ女性らしさのない外見をしている。日中の殆どを寝て過ごし、起きたと思えばたばこ屋の老婆と将棋を指すだけの生活。時々気が向いたように散歩に出れば近所の子供にダル絡みして泣かせている。夜には浴びるように酒を呑み、万年床でへべれけになって眠る。その繰り返し。
焔とは「剣術を教える代わりに部屋の掃除をさせる」という約束で師弟関係を結んでいる──筈だが、洗濯や炊事、風呂掃除など身の回りの世話も焔に任せっきり。焔が家に来ない日は平気で食事を抜く始末。
酒と煙草があれば水分もカロリーも毒も快楽も得られて効率がいいぞ、と豪語している。
そんな自堕落な彼女が師範へと変わる時、必ず髪を一つに結ぶ。
ただそれだけで、普段のだらけきった姿からは想像も出来ないほど研ぎ澄まされた威圧感を放つようになる。のんびりとした動作も間の抜けた口調も変わらねど、その身に纏う空気は一変。研ぎ澄まされた刃の如く、触れれば斬れると錯覚させるほどの鋭さを纏いだす。
弟子は焔ただ一人。稽古中はその辺で拾った木の枝を木刀代わりに使っている。それもまともに振るうことはなく、焔の剣戟を枝で絡め取っては受け流すだけ。焔がどれだけ本気で踏み込もうとも、氷雨は構えを崩すこともなくそれを捌いてしまう。まるでまともに相手をしないように見えて、その実、焔の癖や動きを見て取ることには余念がない。立ち位置、捌き方、構え、足の運び、枝の振り方。あらゆる動作が焔の糧となるよう、常に全力で向き合っている。ただ一つ、一流の撃剣師になるという夢を叶えてやるために。
┃過去
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
幼い頃より鶴蒔流の英才教育を受け類稀なる才能を開花させた彼女は、10代にして数々の大会で頭角を現した。一分の隙もない構えから繰り出される斬撃。まばゆい残像を描きつつ冴えわたる連撃。そして薙ぎ払うように放たれる気の一撃。その華麗な太刀さばきは観る者を魅了し、対戦相手を圧倒する。
鶴蒔流始まって以来の天才と謳われた彼女の妙技は、弁士の謳い文句に擬えて〝抜けば玉散る氷の刃〟と崇められた。
しかし、ある時期から氷雨は鶴蒔流を出奔。
表舞台に姿を表すことは二度となかった。
幼い焔が親に連れられ初めて観戦した撃剣の仕合。
そこで見た、凍える程に華麗な剣筋。長い黒髪を一つに纏めて凛と佇むその姿。それは焔にとって憧れるには充分すぎるもので。
あの日から10年が経った今、かつての憧れは変わり果てた姿でそこにいた。
自分の師範になるよう頼み込む焔に氷雨は寂しそうに微笑む。
私はね、刀が持てなくなったんだよ──
powered by 小説執筆ツール「arei」