What's in my bag?
快晴の夜空の上で豪快に花開くフィナーレの花火を眺めながら、朗二が今日一日で一体何回「美味い」を言ったか数えておけば良かったなあとぼんやり思った。
「花火すげー」
言いつつまだポップコーンを頬張る朗二はどれだけ食べても胃もたれにも肥満にもならないのは随分おかしな現象だなとまじまじと見つめる。レギュラーサイズのポップコーンとは言えもう五回は違う味を買い足している。
当初の予定通り、食べ物のワゴンやレストランを中心に一通り回った。チュロスとポップコーンは間違いなく全種類食べた。肉も二種類制覇したしアイスも途中で三個は食った。とにかくワゴン系はくまなく巡ってレストランでも限定フレーバーを存分に蹂躙。
幸いなのはこれだけ食べても結構な距離を歩いているからか、そこまで腹がふくれた感じはしないこと。いやそれがまた夢の国での食べ歩きの落とし穴なのだろうけれど。
一方で密かに当てにしていた混み具合も空いてはいないが激混みとまでは言えず、まさかの中途半端な状態。当然、手を握ったのは朝の電車での一回だけだ。
「ふつーに花火も見に行きたい。屋台メインで」
「いいね」
でも、こうしてフードファイター並みにひたすら食べ続けながらああだこうだ言って楽しそうにしている朗二を見ていると、それだけでまあいいかと思えるのだから好きな人とのデートとは不思議な時間だなと感じる。
これは自分達に限ったことではないが、別に好き合った二人として特別恋人らしい何かをしているわけじゃないのに、ただここに一緒に来て同じ時間を過ごしているというだけの時間がとても特別で貴重なことの様に思えた。或いは、それに気付かされるというべきか。
当たり前のように過ごした今日一日の毎秒が、本当はひとつひとつどれもかけがえのない瞬間で奇跡的な時の連続でしかないこと。
フィナーレを見上げていると、ふいにその夢の終わりの切なさに勘付いて泣きたくなるほど寂しくなる。
そして、どれだけ失いたくないと願っていても誰でもいつかは今日の終わりの連続が止まるものであったことを思い出してまた、今日を一緒に過ごせて本当に良かったと思えるのだから。
「まあでもなーんか良かったな今日」
「何?」
「楽しかったな~って言ったの」
「えーおれも~。久々だったし。ホテル行ったらお土産くおーぜ!」
「まだ食うのか……」
閉園間際は混むからとパレードが始まる前からメガサイズのお土産袋いっぱいに買っていたお菓子の山だったが、恐らく明日の朝にはもうほとんど残っていないのだろう。
ざわめきだした雑踏の中でやれやれと立ち上がる。
最後の花火が終わると問答無用で人がエントランスへ流れていく。観覧席に座り込んで空を見上げていたのでやや足腰と首が痛かった。大きく伸びをしてふと目線を下げると下からこちらを見つめていた朗二と目が合った。
「ん」
そのまま右手を差し出されたので、咄嗟に掴んで引き上げる。
その瞬間、一日中朝から晩まで食べ歩き過ぎて圧倒的食い気に負けて消えかけていた煩悩が一気に全身に蘇り身震いした。
人はどうしてか三大欲求を同時に身体に宿すことは不可能だと言うがこれはかなり正しいと体感する。さっきまでぼやっとしていた性欲が急にこれからの過ごし方について出張ってきて危うくやんわり抱きしめてしまうところだった。
「いや~~~……あれ~~……」
「うーーーっ、はあ、満足満足。またこような」
「そりゃもうぜひ」
「あとさー、奢りって言ってたけど二人分の誕生日なんだから、チケット代は払う。ホテル代は出さねーけど」
「??? へ、なん、どういう?」
「だって別に泊まる意味ねーじゃん。ホテル取ってるって時点で家帰す気ないのバレバレ」
「うぇ……」
肩を竦めてすたすたと歩き始めた朗二だったが、その背中からは真意が汲めず一人戸惑う。遠ざかる姿を前に待ってのポーズのまま固まってしまった。
え、それって、それって、
「えまっっってそれってどっち!?」
我慢出来なくてむずつく頭のままに口にする。否、してしまった。
その途端、意地の悪い笑みを浮かべて振り返った朗二は、どう考えても確信犯だった。
「っハイ、聞いたからNO!」
「……は!?」
「あ~~、俺はせえ~っかくのっかってやったのにざあんね~ん」
「は!? は!?」
「もうほんっとそういうとこなんだよな~」
「えっ、えーーっ……!」
こうして、せっかくのお泊りデートもわざとだった不確かを確かめようとしてしまうといういつもの難癖が出てしまったからにはきっと今夜は仲良くお菓子を食べながら、朝まで一緒に寝るだけだ。無情にもほどがある。
「いやってか、聞いたからノーってずるくない? 何で俺だけ試練課されてんだよ」
「黙れ。身体に試練課されんのは俺なの。いやそもそも準備してないし何もないじゃん」
「……」
ここでバッグの中身を勘づかれるとまたややこしくなる。なんとか黙ってやり過ごしてからどうかどうか、せめてものチャンス用に部屋のアップグレードがされていますようにと天に祈った。
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