What's in my bag?
テーマパークに比較的近いところに住んでいる者としては、わざわざ早朝から開園に並ぶのもだるいが一方で入園規制がかかって当日入れない事態になっても困る。
アトラクション目当てではないし一日のほとんどを食べ歩きに費やすのは分かっているので、おおよそ十時頃には入れるように支度した。
「最初に入口んとこではちみつのポップコーン欲しい」
「うん」
「で、反時計回りに行こうぜ! 中華のとこ行ったら次バーガーのとこで、途中でチュロス並んで半分ずつしよっ」
「うん」
「ぷうさん乗る?」
「いや別に」
「船のる?」
「乗らない。海賊は乗る」
「黒いポップコーンそこだっけ」
「そう」
分かりやすく電車ではしゃぐ朗二の声を聞いてるとなんだか身体の力が抜けていく。このまま上機嫌の朗二とホテルに直行してまったりゆったりごろごろしたい。なんて言ったらきっとすごく嫌がるだろうから言えないけれど。
車内の混雑からいくとそれほど人もいないように思えるが、卒業シーズン真っ盛りなので平日と言えど四月の新生活までのゆとりを楽しもうと羽を伸ばす輩は恐らくたくさんいる。
だから、中途半端に混んでいるよりはがっつり混んでもらっていたほうがどさくさに紛れてくっついても手を繋いでもそれほど気にしないでいられるからいい。うんざりするほど人がいれば朗二もそこまで過敏にはならないだろうし。
「…………」
「あーーめっちゃ楽しみ。限定フレーバーマジ楽しみ。抹茶とさくら半分しよ」
「する~。肉食いたい肉」
「ひとくちちょうだい!」
「どうぞどうぞ。てか今日めちゃ晴れてる。暑いかな」
「最高気温二十度超えるって」
「寒いよりはいっか」
「どっちでも平気! てかさあ、気になってたんだけど、さくカバン持ってんの珍しくね?」
「え」
急な話題転換に若干動揺しながら朗二を見ると、確かに滅多には持たないボディバッグをじっと見つめていた。
お互い普段から遠出だろうとコンビニだろうと財布とスマートフォンがあれば別に困らないというミニマリスト気質。世の中キャッシュレス化が進んで現金を持ち歩く習慣もほぼないので財布自体もクレジットカードと身分証が入ればそれで充分。ズボンのポケットがあればカバンなど専ら必要なかった。
「まあ、たまには……」
「ふーん」
必死に冷静を装って誤魔化したが、事実この中にはいわゆる夜の必需品が入っていて万が一にも中身を見られたら顰蹙をかうこと間違いなしだった。
でも一応勘違いしないで欲しいのは、これは備えているだけであって事象を起こすか起こさないかはまた別の話だということ。
だから、絶対絶対何がなんでも必要なわけじゃないけれど、欲しい時になかったら絶対絶対困るものとして自分で常備しているというだけ。決してやましい気持ち百パーセントでしている行いではないわけで。
心の中でつらつらと言い訳を述べながら一人でドギマギしている間に、どうやら夢の国の玄関口である最寄り駅に到着した模様。車内のほとんど全員がいっせいに開く扉の方へ意識を向けたように思えた。
「……」
けれどまあ、と朗二より一足先に立ち上がってさりげなく手を差し出す。
備えたからには事象を起こす努力をするのはいけないことではないだろう。ソウイウ雰囲気に出来るかどうかはいわばエスコートする側の手腕次第。ならば手始めに軽めのスキンシップからでもこの内なる野心を醸し出していかねばなるまい。
「? いえーい、レッツラゴー!」
一瞬疑問をもったにも関わらず、ぱっと手を掴んで立ち上がったのを見て存外まんざらではなさそうだなと思う。あとは今日一日どれだけこのべろが自制をきかせてその場その場で適切な言葉をチョイスできるかにかかっている。
「先右なー。入口んとこでポップコーン買うよ」
「はあい」
激込みのエスカレーターに乗ればそれだけでゆっくりと階下へ誘わていく。前に乗っている朗二のつむじを見つめながら何はともあれ「頑張ろう」とだけ思う。
さあいざゆかん、すべては素晴らしい今夜のために!
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