What's in my bag?
こうも毎回、何か大事なことがある度に喧嘩をしているとさすがにある意味達観の領域に入る。
でも、視点を変えれば言ってしまったことも言われてしまったことも両方にとっては最もな言い分。それは互いに分かっているので、きっかけがあってぶつかってそれを機に言いたいことを言い合うというコミュニケーション方法は意地っ張りで素直になりきれないのがデフォルトである自分達にとってはいいデトックスなのかもしれない。
まあ、本当ならぶつからないで意見を交わすことが出来るのが一番なのだろうけれど。
「…………」
分かりやすくぶすくれた顔で膝を抱えて拗ねている朗二の様子をちらちらと伺いながら、さてどうしたものかと頭を悩ませていた。
だって今日は三月六日。というのも、小学校に入る前からの二人の暗黙の了解として、三月八日生まれの朗二と三月十日生まれの自分とのちょうど中間日である三月九日は家族も友達も介入しないで二人きりで互いの誕生日をお祝いをしようねというものがあった。
無論、これを提案したのは自分だ。
きっかけとしては、「大好きな朗二くんの誕生日を俺がお祝いしてあげたいから」とショートケーキを買ってもらって当日朗二の家に押し掛けたところ、当然のように家族で誕生日パーティーの真っ最中で、玄関先でバースデーハットを被った朗二にまたこんどねと元気よく追い返されたというトラウマからだ。
まあ確かにその二日後の自分の誕生日は当然のように父と母がお祝いしてくれていたので普通に考えたら分かることなのだが、その時の自分は、朗二が自分と過ごす時間よりも親と過ごしている時間の方が圧倒的に幸せそうだったことが物凄くショックで、シチュエーションに嫉妬したのを覚えている。
そこから、毎年三月九日だけは何があってもいくつになってもどんなに悪条件でも、何かしらの準備をして必ず一緒に過ごしてきた。
増して今年は高校卒業という大きな節目を迎えた特別な年でもある。先のバレンタインでも意図せずひと悶着あったことだしここはひとつ、夢の国でお泊りデートでもしたいなと一人で勝手に目論んでいた。
ただ、いつもではないが同じ条件の場所に行っても人込みが嫌だと疲れた顔をすることも度々あるのでサプライズで無理に遊びに連れて行くのも考え物。そう思って、近頃の体調や精神面にそれとなく探りを入れようと喋っていたら何でかもめた。
否、何でかということはない。朗二が突拍子もなく、大学に入って落ち着いたら飲食店の厨房でバイトをするとおもむろに言ったので、びっくりしてお前肉の調理とか絶対ダメじゃんと言ったらキレられたというこちらにすればむちゃくちゃどうでもいいことで機嫌を損ねてしまった。
でも、時間を置いて冷静に思えば朗二にとっては苦手なものを克服するという一大決心だったのかもしれないし、もしもそうなら確かにろくな返しじゃなかったなとは反省している。
なにぶん、苦手な分野は深堀せずになるべく通らない方に努力する性格なので嫌だけれどどうしても出来る様になりたいという感覚はあんまり良く分からないというのもある。いやいや、分からないんだったら、尚更無難にガンバレと言えばよかったわあと数分前の自分のデリカシーのなさすぎる発言にため息を吐いた。
というかこれはもう、悪気がない分さっさと謝らないともっと謝りにくくなるパターン。
結果、昨日手配してしまった入場チケットとホテルがパアになりかねないわけだしと、意を決して咳払いをする。
「えー……、朗二クン、ごめんよ……流石に余計なこと言いました……バイト頑張ってネ……」
すると、野良猫のようにぴくっと過敏に反応した様子の朗二は明らかに不機嫌そうな目で睨んでくる。
「……はああ~~??? そこじゃねえよバカっうざっ」
「ええ、えっ、」
「ほんと信じらんない。会話全部録音しときゃよかった」
最早それはこっちのセリフである。じゃあ一体全体何に対しての怒りだったのかが全く分からなくなって困惑する。自慢じゃないが感情は表にがっつり出すタイプなので、狼狽しているのはモロバレだろう。
今度は朗二が呆れて深いため息を吐いた。
「はあ……。もういい。お前と喋るのほんっと疲れる」
「つ、つかれないでよお~……束の間の休息なんだしなかよくしよお~……」
「で、何。疲れてないかとかやたら聞いてきたけど。旅行かなんか行きたいってこと」
「すごい朗二エスパーじゃあん! え、でも~……疲れてたら人込みとか嫌かなって思って~……」
「気の遣い方やたら下手かよ。九日でしょ。別にいいよ。どこ行くの」
「じゃあ~、夢の国とかどう? 泊まりで。ホテル代とチケット奢るから」
「えっっ」
思わずといった感じで嬉しそうに上ずった朗二の声につられて、ゲンキンなことにすぐドヤ顔になってしまう自分に内心やれやれと思う。
「いく~! パーク飯久々ぁ!」
「へへ。今時期はやっぱちょっと混んでるっぽいんだけどいい?」
「いい! 大丈夫! なんなら雨でも全然いい! たのしみ! どっち行く!? 何食う!?」
すっかり機嫌を直してあれだこれだと楽しそうに一人で喋り出した朗二に一安心して、ほくそ笑む。なんだかんだ言ってもご機嫌取りならテーマパーク一択でしょ。
結果オーライの展開に、心底ほっとした。
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