鳥の子4
長い夢を見た。
それはあくる日の二人が、言語に違わぬ容姿をもって、その陳述を我が物にする独善的かつ無粋な物語だった。少なくとも私はこの様を見て、くだらないと思った。
長い時をかけ愛されることを望み続けている。幼気な幼心は既に多くの時間が経ったというのに、未だ成長の兆しを見せない。体ばかりが大きくなって、やがて身体機能は衰えていき、その中で追いつけないまま温もりを待つ心がある。だからこそ、こんな稚拙でくだらない救済譚を生み出したのだ。その周りで生きる人々がどのような仕打ちを受けようが、彼女の知るところではない。自分だけが幸せであるなら、それで良い。
「消えろ」
これはずっと昔に、あなたも思ってたことでしょ?
我々に再定義の術がないことは既に明らかだった。この空虚な問答ですら、定義と言えるか定かではない。傍から見た時、私達の行いは、一体どれほど馬鹿げているのだろう。どこまでも不安定で、不明瞭で、私達を知覚出来る存在は恐らくいない。それでもいいよ。だってもう、わたしはシキ以外見えてないんでしょう? 君の方が早くに諦めているようだな。諦観と悲観は違うよ。似たようなものだ。
夢から醒めたのは、目が覚めたのは、私達がそれを違うと定義してしまったからだ。他者からの肯定を私達は常に渇望する。だが肯定とは、相手にとって都合のいい生き物に成り下がった証左でもある。私はあの場に相応しくなかった。少なくとも、怜のことを無条件に肯定してやることが出来なかった。
初めに目を覚ましたのは彼女だ。幾度も潜り込む深層の度、そのどちらかが覚醒を選択する。この地に居られないと叫ぶ。ならばかつて描かれた本《世界》の末端は、いつまで白地の下敷きになることを認めてくれるだろうか。彼らは彼女以上に、その身を繋がれ続けている。ひそめく。遠くで声が聞こえる。ささやく。創生、「全てが終わった果てで、新たな声が聞けることを願っている」。
これではまるで――“未来はないよ”。
渇望してたなんて嘘だよ。全部なかったことにしちゃおう。第二章、あたらしいわたしたち。だってもうあの時から百日以上が経ったんだから、わたしはとっくの前におばあちゃんになってあの世行き! あなた以外が見えないのも当然かもね。シキがシキのままなのも、わたしの恩讐。ならばまだ、私達が色濃く残るよう君は筆を手放す気がないんだな。でもこれまでの全部は一回わすれて。大丈夫、わたしたちはやり直せる。
なぜならこれは、物語《お話し》だから。
フィクションとはなんとも都合の良い言葉である。人が死のうと、街が焼けようと、世界が滅ぼうと、全て手のひらの上だ。実害はない。その中で、彼らが、どれほど苦しんでいる?
装置に感情はいらない。ただそこに、あるべくして在ればいい。仮初の命は何度だって投げ出せる。そう組まれたプログラムに熱情の萌はない。だがそれに恋をする生き物がいる。立体的に見せた平面を覗き込み、生き様を査定する、狂気的な生命体。出力された文字列を感情と誤認し、身勝手にも付与させ、無に等しい価値ばかりを下す。
私達はその中で眠りにつき、或いは身を動かし、既に繰り返された初演を始める。
絶対に忘れないように。わたしの前では青色の瞳を見せないで。もう金輪際、誰とも関わりたくない。
だから深いところへ、深層へ、今も潜り込むことを辞められずにいる。呆気ない発露を横目に、悠久とも思える濁流に目を伏せ、懐古に抗う。新しい私達。それがこんな奥底にあるとは到底考えられない。
?
だって深くにいけば、理解の範疇を抜けたら、文字通り二人きりでいられるでしょう。見えてないだけじゃなくて、だれの記憶からも消えて、やっと始まるわたしたちのお話し。
それは本当に君の望むところか? そうだよ。
お前のせいだ。
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