黄昏の釣果
――3日経った。
厳密にはこの特異点には黄昏時しかなく正確な時間が分からないため、残存魔力からの憶測だが。
霧はこの三日でゆっくりと晴れていった。マスターはカルデアと連絡が取れただろうか。
こちらからカルデアやマスターと連絡を取ることはできないが、自身がマスターの無事を確信しているように「四不相くんが無事だから太公望も大丈夫」と安心しているだろう。
ただマスターから魔力が流れてこないように、こちらから四不相へ魔力を提供できていないため、戦闘時に変身するのは難しいだろう。それでも彼ならばマスターを守ってくれると信じている。あと少し時間があれば仮想パスをマスターと繋げられたのだが。
――1週間経った。
特異点の解決までに要する時間は最短で数時間、大規模特異点になると一ヶ月以上かかることもあったらしい。
ここは広さこそそうでもないが、一週間経って音沙汰なしとなると、長丁場になるかもしれない。元々無駄な魔力は使わないようにしていたが、更に節約する工夫が必要だ。
陣は最低限の機能のみ残してあとはカット、術式も効率がより上がるものに組み替える。霊基は霊体化できれば一番いいが、それでは陣を維持することが難しくなる。そのため陣と同様に、最低限の機能を残して後はオフか出力を低下させる。エネミーがいつ襲ってくるか分からない状態ではそうは行かないが、この一週間そういったことはなかったので大丈夫だろう。
――1ヶ月経った。
最初に霧が晴れて以来、特異点に変化は見られない。
このところは最初に特異点を走査したときの情報から、黒幕に対抗するための術式を組んでいる。一ヶ月もあればそこそこのものが組めたが、まだまだ改良の余地はある。なにせ自分がいながら簡単にマスターを引き離せてしまうような存在だ。正体も分かっていない以上、有効打を与えるのは厳しいだろう。
それにいつマスターが戻ってくるか分からない以上、中途半端になるような組み方はできない。なのでまずは全体を組んでから少しづつ改良を加えていくことになる。
何にせよ、せっかく合流できたのにまた引き離されるようなことはあってはならない。せめて一時撤退までの効力は出せるようにしたい。
――3ヶ月経った。
人間は何もない空間に閉じ込められると数日と経たずに正気を失うというが、自分はサーヴァントである以前に道士である。それこそ十年でも万年でもマスターを待てる自負があるが、それはリソース問題がない場合だ。
魔力の節約はしているものの、どうしても減っていく。このままでは持って二年か。流石にそこまでかかることはないだろう……と思いたいが、ある嫌な仮説が浮かんでしまった。
自身がいる特異点と、マスターがいる特異点に時間のずれがある。
特異点ではないがかつて第六の異聞帯、ブリテン島では二ヶ月近くに及ぶ作戦になったが、異聞帯の外ではたった一日しか経過していなかったという。このときはそれによって崩落までのタイムリミットが伸びたが……仮にこの特異点もそうだとすると、マスターにとっては一日と少ししか経っていないことになる。
……覚悟を決めるときが来たかもしれない。
もちろん、サーヴァントとしてマスターに召喚されたときからいつか|その日《・・・》が来ることは分かっていたが、誰にも看取られずというのは寂しいものだ。
このまま自身の霊基と陣を維持するなら残り二年だが、陣と実際に「釣り上げる機構のみ」を維持するだけならもっと長く残せる。つまり、霊基を全て魔力に変換して退去する。そしてその決断は早ければ早いほど残せる期間が延びることになる。
だが、退去するということは宝具である四不相も消えることになる。もし戦闘中だった場合、マスターは四不相が消えたことに動揺するだろう。その一瞬の動揺が致命傷に繋がる可能性だってあるのだ。それを考えると、軽々に退去は選択できない。
だから退去は最終手段だ。一年ほど様子を見て、全く動きがないようなら再考するとしよう。
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