黄昏の釣果
「……まさか、特異点に来て早々にマスターと離れ離れになるとは」
未だ霧深く、蜃気楼のような辺りを見回してそんな独り言を漏らした。直前に「僕に適性があったことに、皆さん感謝することになりますよ」なんて大口を叩いておきながら情けない。
だが、今は反省会をしている場合ではない。頭を切り替えて、直前に起動させていた解析用の術で特異点全体を軽く走査する。……反応はなし。マスターと四不相は、恐らくこの特異点から別の特異点ないし空間へ強制的に転移させられたことになる。ただし自分がこうして現界できている以上、要石たるマスターは生きている。それは間違いない。
また、どうにも強力な結界が張られている。マスターとはぐれる直前に一瞬だけ見えた禍々しい城にではなく、この特異点全体にだ。マスターのバックアップを受けた上で全力を出せば破れなくはないだろうが、今はそのマスターが不在だ。パスは繋がっているが、結界のせいか魔力が流れてこない。この分では通信も厳しいだろう。
城の近くには魔獣に影の騎士、とでも呼ぶべき黒い人影のようなエネミーが複数体。こちらに気づいている様子はなく、また近くにもいない。不用意に近づかない限り襲ってくることもないだろう。
そして城内に高魔力反応。聖杯とはまた違った、おそらくこの特異点の黒幕とでも呼ぶべき存在がいる。マスターとはぐれた自身を襲ってこないのは、単に今は傍観に徹しているのか、動けない理由でもあるのか。
現状把握は以上。ではここからどう行動するべきか。
一つは「マスターを見つけ出し、その場所へ移動する」だが、これは結界がある以上難しい。それこそ自らの霊基も焚べて全力を出せばできなくはないだろうが、それでは合流した後マスターを守ることができない。本末転倒だ。
つまりこの場で待機し、マスターとおそらく土地によって召喚されているであろうはぐれのサーヴァントが結界を破ってくるのを待つしかない。
早々に結論を出して解析用の術を解除。替わってマスターを|釣り上げる《・・・・・》陣を張る。結界に綻びが出たらそれを検知して引っ張り上げるのだ。
「あとは待つだけ、ですね。…………」
いつものように隣にいる四不相くんの頭を撫でようとして空を切り、そういえばマスターを守るようにと側につけたことを思い出した。カルデアの賑やかさに囲まれて、久しく味わってなかった感情が浮かんだ。
powered by 小説執筆ツール「arei」