|帷《とばり》の向こうで|囁《ささや》く|宵《よい》

2025年3月14日、7200文字。
HADES GAME、R18、腐向けBL、タナトス×ザグレウス、タナトスのザグレウスに対するクソデカエロ感情、キス、愛撫、手コキ、挿入無し、ラブラブエンド。

〜あらすじ〜
夜女神ニュクスの加護と館の侍女頭デューサによって心地よく整えられた冥府の館。その館の隅でひっそり繰り広げられる若い男神達の睦み合い。
———————————


 幽かに蠢く亡霊達と、蝋燭の柔らかな光に満ちる冥府の館の通路を、ザグレウスは迷いなく進む。彼の歩みに影が揺れ、蝋燭の灯が儚く揺らめいた。
 その瞬間、|帳《とばり》の隙間からしなやかな手が伸び、彼の腕を掴んだ。突然のことに抵抗する間もなく、強く引き摺り込まれる。だがすぐに優しく受け止められると、鼻腔をくすぐるのは義兄が好んでつける香油の香りだった。
「おい、タナトス、びっくりするじゃないか。やめてくれよ」
 少々困惑した口調で、ザグレウスは義兄を嗜める。
「こうでもしないと、お前はすぐに館を出て行ってしまう」
 低く囁かれるその声は僅かに熱を帯びていた。近すぎる——タナトスの熱が息遣いが、皮膚を焼くほどに感じられる。たじろぎ、わずかに身を引こうとすると、それを察したかのように腕の力が緩む。しかし、離れる間もなく再び引き寄せられた。

 冥府の死神と恐れられるタナトス。黒衣に黄金の装飾を纏うその姿は、禍々しくも美しい。人外を思わせる灰色がかった滑らかな肌、綺麗に刈り込まれた銀糸の髪、長い睫毛の奥に潜む曇りのない黄金の瞳——その瞳にザグレウスはいつも魅入ってしまう。

 気持ちを確かめ合う前までは、義弟であるザグレウスに向かって「首を刎ねてやろうと思っていた」などと平然と口にするほど冷淡な——むしろ冥府の死神らしかったのに、今では目が合うたびに腕を引かれ、強く抱きしめられる。
 嬉しくもあり、重くもある。今まで誰からもこうした愛情を向けられたことがなかったザグレウスは、どうしても戸惑いを隠せなかった。

「俺も今では|冥府《ここ》で仕事を受け持つ神だ。暇じゃないんだぜ」
「少し前に館に戻ってきたばかりだと思ったが……休む間もなく出立とは。この俺に、挨拶の一言もなし、か?」
「うっ……」
 タナトスの鋭い指摘に、ザグレウスは言葉に詰まる。実は先の冥界点検(と言う名の冥界放浪)の任務で、スティクスの下水施設を激しく破壊してしまった。当然ながら冥界の王であり管理者である父・ハデスに烈火のごとく叱責され、気まずさから地上へ逃げようと家出を画策していたのだ。だが、その矢先にタナトスに捕まってしまった。

 重なる帷の奥、館の死角に押し込められる。ザグレウスもまた、武芸の師であるアキレウスに鍛えられた身だ。冥府の王子として、相応の逞しさを備えている。だが、タナトスには敵わない。黒豹を思わせる、しなやかで強靭な筋肉。抗う間もなく押さえ込まれ、顎を持ち上げられた。
 そして有無を言わさず、唇を塞がれた。唇が触れ合った瞬間、タナトスの呼吸が絡みつく。深く、熱を帯びた口づけ。最初は一方的だった。けれど、次第にザグレウスの抗いも、戸惑いも、じわじわと溶かされていく。
「ん……っ」
 ほんの少しでも息を整えようとすれば、すぐに追いかけてくる。歯列をなぞる舌、唇を食むような甘噛み。こんなにも執拗に、貪るように口づけられるとは、義兄の嬲るような、だが愛しい者を求める愛撫——ザグレウスの肉体の感度は正直なもので毎回義兄の責めに蕩けてしまう。
「は……っ……タナトス……っ」
 押し込められた背中の帳がかすかに揺れる。次の瞬間、タナトスの手が再び顎を捉えた。ぐっと持ち上げられ、無理やり視線を合わせさせられる。黄金の瞳が、燃えるように光る。

「お前は、俺を避けるように館を出て行く」
 低く囁くと、その手がゆっくりと動き出した。顎をなぞる指先が、滑るように首筋へと降りていく。
喉の脈動の暖かさを確かめるように親指がゆっくりと撫でた。
「……っ」
 そのまま喉元を伝い、鎖骨をなぞる。タナトスの手は冷たいのに、触れられる場所だけがじわりと熱を持つ。細く長い指が胸元へとするりと忍び込む冷たい指先。筋肉の上を滑りながらゆるやかに円を描く。やがて指先が、乳首へと辿り着く。
 びくりと背を震わせるザグレウス。タナトスはその反応を逃さず、指の腹でゆっくりと撫でる。最初は軽く、じわじわと焦らすように——やがて、指先で弾くように弄び始める。嬲る指先で見えないがザグレウスのそれがタナトスの愛撫に合わせ色付き、淡い血の色を浮かばせていた。

「ふっ……敏感だな」
「う、うるさい……っ」
 ザグレウスは反発するように言い返したが、タナトスの指がまたゆっくりと動き始める。焦らすように、ほんのわずかに触れるか触れないかの距離で。乳首を指先で優しく撫で、時にわずかに弾くように弄ぶ。
「あっああっ……やめろって」
 かすれた声で言うが、タナトスはやめない。逃れようとするザグレウスの動きを封じるように、タナトスのもう片方の腕がしっかりと腰を抱いた。
「本当に、やめてほしいのか?」
 耳元で息を吹きかけるように囁きながら同時に耳朶を喰む。指が今度は脇の下へと滑る。

(やばい)
 心臓がいつもより早く打ち、身体が勝手に熱を帯びていく。触れられるたびに、びくびくと微細な震えが走る。タナトスの指先が滑らかに動くたびに、敏感な部分がじんわりと疼く。無意識のうちに、息が乱れ、喉の奥から熱を孕んだ吐息が漏れた。
「本当に、やめてほしいのか?」
耳元で囁くように言いながら、指が今度は脇の下へと滑る。
「っ……タナ、トス」
 抗おうとすればするほど、強く押さえ込まれる。脇腹を撫でる指が、脇の下へと入り込む。そして茂みを愛おしそうに撫で摩った。
 ざわりと、背筋が震えた。くすぐったさと熱が入り混じり、ザグレウスは思わず身を捩る。だが、それすらタナトスの思う壺だった。脇の下をくすぐるように撫でながら、さらに強く身体を押さえ込む。

「今ここで、俺のものだと思い出させてやる」

 低く囁くと同時に、再び塞がれる唇。今度はもう逃げる余地もなかった——。

powered by 小説執筆ツール「arei」