鍛え合う躰、絡み合う空間

2025年5月10日、3,700文字。
Stardew Valley、筋肉、ただの筋トレ、複数モブ、アレックス。

〜あらすじ〜
谷にある憩いの場、スパにあるスポーツジムで出会った逞しい男たちとともに汗を流すアレックス。筋肉の熱気と視線が交錯する中、彼はかつて抱いた憧れと陶酔を思い出していく——。
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 アレックスは雪深い山道を黙々と進んでいた。足を踏み出すたびに、ぎゅむりと雪に沈み込む感触が伝わる。積もった雪よりも高く足を上げ、一歩ずつ踏みしめながら前へ進む。その繰り返しが己の肉体を鍛えることになると信じ、あえて険しい道を選んでいた。

 目指すのは、この山の中腹にある温泉施設『スパ』だ。最近リニューアルされたばかりで、温泉はもちろん、広々としたプールや休憩所、さらにはスポーツジムまで完備されている。この田舎の谷にしては驚くほど充実した施設である。冬になると家に篭りがちなアレックスにとって、このスパは欠かせない場所だった。

 スパのすぐ傍には、Jojaコーポレーションの鉄道が通っている。もともとは都心へ物資を運ぶための路線だったが、最近では観光列車も運行するようになった。
 都会からの観光客が田舎ならではの特産料理と大自然を求めて訪れる。特に今はスターデューバレーの冬の名物行事「冬星祭」が近いため、ペリカンタウンでも見慣れぬ顔をよく見かける。

 その時、遠くから汽笛の音が響いた。スパの近くにある小さな駅に列車が到着したのだろう。ようやくアレックスもスパの敷地内に辿り着いた。ちょうど列車から降りてきた観光客たちが建物へと足を踏み入れるところだった。
 彼らに続くように中へ入ると、ふわりと温かな空気が全身を包み込む。館内には心地よいリゾート調の音楽が流れ、南国の香りが漂っていた。たった今凍えそうになりながら歩いてきた外の雪景色が嘘のように感じられた。

 観光客たちは利用料金を払い、アレックスは谷の住人であることを示すパスを提示して館内に入った。谷の住人はフリーパスになっているのだ。
 ほとんどの客は温泉やプールが目当てのようで、ジムを利用するアレックスとは別の通路を進んでいく。賑やかな場所ではトレーニングに集中できないと考えていたので、むしろ好都合だった。

 普段このジムは、アレックス専用といってもいいほど利用者が少ない。たまにサムの父親ケントを見かける程度だ。リニューアルしたばかりの頃は、ルイス町長が「最近、中年太りを気にしていてね」と訪れていたが筋肉痛に懲りたのか、いつの間にか姿を見せなくなっていた。

 更衣室でトレーニングウェアに着替え、マシンルームへと向かう。広々とした室内には、整然と並んだ最新の機器が揃っていた。アレックスは軽くストレッチをした後、まずはランニングマシンに乗る。速度を上げながらテンポよく走り心拍数を上げる。
 体にエンジンがかかった所で、続いてベンチプレスの前に立ち、適切な重量をセットすると、ゆっくりとバーベルを持ち上げた。大胸筋に効かせるように意識しながら、何度かリズムよく上下させる。上腕三頭筋にじわじわと負荷がかかり、血流が巡るのを感じた。

 汗が額に滲んできた頃、扉が開きがやがやと数人の男たちが入ってきた。スパの入口にいた観光客だった。どの男も普段から鍛えているのだろう。引き締まった体つきをしており、女性にも男性にもモテそうな雰囲気を漂わせている。
「観光に来てまでジムで鍛えるなんて、よっぽど好きなんだな」と、アレックスは思いながら、黙々と自分のトレーニングに集中した。

 アレックスはベンチプレスのインターバル中に、ちらりと視線を上げた。男たちはそれぞれにトレーニングを開始していた。ダンベルを使ってアームカールに励む者、スクワットラックでバーベルを担ぐ者。彼らは黙々とセットをこなしながら、時折気合いを上げる雄叫びが聞こえてきた。
 そんな中アレックスはどことなく視線を感じていた。チラリと横目で確認すると、男たちの何人かがまるで品定めをするように、じっくりと舐めるような視線を送ってくる。鍛え抜かれた体を持つ彼らの、時折交わす視線にはどこか含みがあった。

 アレックスは汗を拭いながら、持参したボトルから水をひと口含む。喉を鳴らして飲み込むと、じっとこちらを見ていた男の一人が、ゆっくりと近づいてきた。

「なあ、君、なかなかやるじゃないか」

 低く響く声とともに、男は隣のベンチに腰を下ろした。アレックスより年上だろうか。近づいたことで、ほのかに汗と制汗剤の香りが混ざった雄の匂いが漂う。減量前の厚みを残した筋肉は、力を込めるたびに隆起し、汗で張りついたタンクトップには乳首の凹凸がくっきりと浮かんでいる。

「普段からかなり、ヤリ込んでるな」
「まあな」

アレックスは肩をすくめ、バーベルを整えながら答えた。

「俺たち、いつもは街のジムを利用してるけど、ここの谷の施設がなかなか良いと聞いて、観光がてら寄ってみたんだ」

 男の視線がアレックスの腕から僧帽筋、大胸筋、腹直筋とゆっくりと這い、最後には股間に止まる。アレックスはその視線に気づきながらも、冷静を装い問いかけた。

「それで……俺に何か用かな?」
「……よかったら……一緒にやらないか?」

 アレックスは男の熱を孕んだ視線を全身で受け止めた。

「……一人じゃ…その……君も色々と不便だろ……」

心臓が強く打ち鳴る。だが、それは警戒の鼓動ではなく、昂ぶりの予兆だった。

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