着信




中を穿っていたものの形が変わって、隙間がまた詰まった。
苦しい、と思って目を瞑ったこちらの様子を見て腰の動きを止めた男から、泣いてもええですよ、と言われて笑ってしまった。
「……今の、笑うとこですか?」
普段よりもいっそう低く掠れた、こういう時にしか聞けない声が耳に届く。
今日はまだ触れられてない奥が疼いた。
そうかて、お前がオレをこないして泣かせてるんやないか。
目を開けたら、眉に皺を浮かべた男が目に入って来た。
気付いてないかもしれへんけど、お前から泣いてもええ、て言われたの、これが二度目や。
一度目は、オヤジの亡骸に逢うのに、病院に行ったあの日。
お前はオレの隣に座って、もう泣いてもいいですよ、と言った。
人に先に泣かれたら自分は泣けへん、そのことをお前も分かってるんやな、と思って、オレはあの時、少し安心したんや。
四草の咎めるような視線を受けて、しょうもない思い出話を口にする代わりに、その口を塞ぐようにキスをする。
小言を言う五月蠅い口、根性悪そうにひん曲がることの多い可愛げのない口。
オレを兄さんと呼ぶこの口が、今は愛おしい。
好きに動いて、オレを泣かせてくれ。
唇を離して、お前の好きにせえ、と言うと、男は頷いて動き始めた。

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