英雄は恋をしない


付き合ってるグ・ラハとヒカセン(マリィさん)のはなし。

視点はグ・ラハ(すきすきだいすき)
相変わらずのヒカセンガチ勢。公式だから仕方ないね。

暁月6.0後、黄金前のどっか。
別段何事もなくイチャついてるのを書きたかった(んだけどなあ?)
付き合った経緯はそのうちそれはそれで書きたい。

相変わらずマリィさんはアロマンティック(無恋愛指向)の気がある。
が、それはそれとして。という話だ。



■



 深夜、そろそろ日も変わるかどうかという頃。
 クルルが今日のところは、という辺りで仕事を切り上げたので、オレも素直に部屋に戻る。
 以前はもう少しキリの良いところまで、と夢中になりすぎて夜を明かしてしまって彼女に説教されたりもしたが、最近はそれも減った。
 忙しいのは確かだけれど、ちゃんと休んでくれていいことだわ、と笑ったクルルには、もしかしたらお見通しなのかもしれない。
 自室として借りているナップルームに戻るや否や、着替えなんかの雑事をざざっと終わらせて、しまっておいたリンクパールを取り出してじっと見つめる。
 これは、オレが持っている中では一番新しいリンクパール。
 他にも元暁の血盟の仲間達へ繋がるものや、バルデシオン委員会の皆と繋がるものなんかもあるが、これは中でも特別な一つだ。
 見た目は他とさして変わらない、エオルゼアではありふれた通信手段。
 だが、オレの一番の憧れの英雄、ただ一人と繋がるリンクパールなのだ。
 その事実だけでもとんでもない価値があるだろうけど、それ以上にコレは、彼女の方からオレにと贈ってくれたのだ。
 恋人なのだから、特別な連絡手段はあってもいいだろう、と。

「……へへ」

 ついつい改めて噛み締めてしまい、口元がだらしなく緩むのを自覚する。尻尾を落ち着きなく動き回り、ぱしんぱしんと椅子の足や背もたれを叩く音がした。
 お互いに忙しい……いや、オレはここの所ずっとバルデシオン委員会の立て直しの手伝いをしているけど、あの人はどこかを忙しく飛び回っているだろうから、毎日連絡してる訳ではないが。
 下手にかけて、邪魔をしてしまうのは申し訳ないし。
 なのでもっぱら彼女からの連絡を待つ日々で、今日あたり来るんじゃないかな、などとリンクパールを手にソワソワしている訳である。
 そうして見つめていたリンクパールから、聞きなれたはずの呼び出し音が空気を震わせ、思わず体がビクっと緊張してしまう。ついでに尻尾もピンっと伸びた。
 震えて取り落としそうになる手を必死に御して、耳元へと当てる。

「っは、はい、こちらグ・ラハ・ティア……!」

 信じられないくらい硬い声が出た。
 それを聞いて、耳に入ってきたのはおかしそうな含み笑い。

『どうしてそんなに緊張してるの?』
「し、仕方ないだろ? だって、これに出たら絶対あんたからなんだぜ?」
『そろそろ何度もかけているし、慣れてもいいと思うのだけれど』
「いや、なんか対面より緊張するっていうか……。それに、何度かけてくれたって、あんたから連絡してくれてるっていう、その価値は変わらないから」

 目の前に居て話すのは、なんていうか喜びとか嬉しさが勝つけど、通話だと変な緊張感が生まれるのは不思議だな、とは思う。
 それでも、回数を重ねれば慣れてなんとも思わなくなるかと言えば、きっとそんな事はないんじゃないだろうか?
 だって、勿論何かの報告があれば向こうからかける事はあるけど、個人的な、なんなら用事という用事もなくかけてくる事なんか、無いような人だ。
 なんでもない事だけど、だからこそオレにだけしてくれている、その価値やありがたみは、薄れさせたくない。
 我ながら拗らせている自覚はあるが、リンクパールの向こうの彼女は『相変わらずね』と呆れたような口ぶりながらも、その声色には慈愛や許容が感じられた。

『まあ、緊張するくらいでいいのかしら? この間暁のリンクパールの方からかけたら、貴方ひっくり返ってたものね』
「直通のがあるのにこっちからあんたの声がしたら、そりゃ驚くよ!」
『仕事としての話だったから、こちらが適切かと思って』
「……そうだな、そっちが正しい」
『この調子だと、そちらからかけてくる日は遠そうだわ』
「かけたいけど、だってあんたは夜中だって何かの依頼とか採取で忙しいことがあるだろ?」
『気を使わなくても、出られない時は出ないわよ。かかってきたのは分かるから、後でかけ直すわ』
「でも、音が鳴ったり気が逸れたりして、そのせいで怪我でもしたら」
『そういう時は対策してあるけど、心配してくれてありがとう』

 分かってる、隠密行動みたいな時は音が漏れないようにするし、その程度で集中状態が途切れるような人じゃないよな。
 理解してるつもりなんだけど、つい過剰に心配してしまうオレに、マリィはそれを受け取った上で大丈夫と安心を促し、礼まで言ってくれる。
 優しい彼女は、人からかけられる気遣いを雑に受け流したりしない。
 たぶん、オレからの感情はかなり重い。それでも、きちんと受け止めてくれる。

「その、こっちは相変わらずだけど。あんたは今どんな冒険してるんだ?」
『冒険というか、今は各地の復興の手伝いが殆どね』
「ああ、そうだよな。でも、それはそれで冒険だろ?」
『まあね。ああそうだわ、近頃新しい事を始める人が多くて……サベネア島で、ヒッポ便を始めたアルカソーダラ族の子達の手伝いとか、レポリット達の夢探しの手伝いとか、ウルティマ・トゥーレのカフェの手伝いとかが比率としては多いわね』
「なるほど、今だからこそ何かを始める人も多……、……なんて?」

 アルカソーダラ族のヒッポ便、はなんとなく分かる。あそこには足の速いヒッポって動物が居るらしいから、それを使った新たな事業だろう。
 レポリット達もわかる。人を迎える為に働いてきた彼らが、今後の世界をどう生きるか……新たな道を探そうとしている。必要な事だろう。
 ……が、最後の言葉の組み合わせが、意味不明すぎた。

「ウルティマ・トゥーレって言ったか?」
『言ったわね』
「ウルティマ・トゥーレで、カフェ?」
『そうよ』
「カフェって、オレの知ってるカフェでいいか?」
『お客さんに居心地の良い場所と、コーヒー等の飲食物を提供する施設の事で合ってるわ』
「……ごめん、あんたどこで何してんだ?」

 オレの知ってるウルティマ・トゥーレからだと、ちょっと想像できない状況なんだが。
 あの、絶望と停滞で満ちた天の果てで、いったい何がどうしてどうなったらカフェ営業って話になるんだ……っていうか、あそこまだあるのか?
 ああいや、そりゃあある、のか? 別に夢や幻だった訳ではないんだから……

『話すと長くなるのだけど、レポリットのジャミングウェイが……、……いえ、本当に長くなるわね。今度にしましょうか』
「ええ?! めちゃくちゃ気になるんだけど?!」

 確かに、既に日も変わってしまった。
 間違いなく長くなるその話を今から始めて、中途半端なところで止められてしまっては、寝るどころでは無くなってしまうかもしれない。だって、絶対面白い話だ。
 オレはマリィの冒険の話なら夜通しでも一日中でも聞いてたいけど、それに付き合わせては彼女の負担になってしまう。

『今度、もっと時間が取れそうな時に話すわ。その時のお楽しみで、ね』
「うう……。……じゃ、じゃあ、その、さ」
『なあに?』
「近いうち、会って話したり……出来ない、かな……」

 こうしてリンクパール越しに話をするのだって嬉しい。これまでの冒険の話も、今携わっている話も、いくらでも聞きたい。
 でも、やっぱりさ。会って話がしたいと思う。
 あんたの顔を見ながら。その時、どんな気持ちだったのかって、表情を見ながら聞きたい。
 以前のように、一緒に旅をして、長く同じ場所に居たりする事はほとんど無くなった。せっかく、恋人なんて夢みたいな立場になれたのに。
 この道を選んだのは、オレ自身だけども。
 会いたい、なんて言うのは我侭だとは思う。忙しい彼女に負担を強いるのかもしれない。
 でも、それを冷たく跳ね除けはしない、という確信がある。無理なら無理と言う人だけど、無下にしたりはしないし、出来るだけの考慮をしてくれる。
 ……分かってて言ってるんだから、オレも昔より計算高くなってしまった。嫌ではないけど。

『ボクは構わないけれど。貴方、次はいつまとまった時間が取れそうなの?』
「! あんたが来てくれるんなら、いつでも! 明日にだって!」
『それ、絶対今から部屋を飛び出して、抱え込んでる仕事を徹夜で片付けるつもりでしょう』
「うっ」
『そういう無理をして時間を作るのはやめてちょうだい。……で、次はいつ時間が取れそうなの?』
「……、……三日後には、なんとかする……」
『分かったわ。それじゃあ、三日後はオールド・シャーレアンに行くわね。ラストスタンドで待ってるから、くれぐれも無茶な進行をして寝不足とかにならないこと』
「はい……」

 重ねて無茶の禁止を言い渡されて、思わずシュンと肩が落ち、耳もぺたりと落ち込む。
 そんなに分かりやすいのか、オレ。いや、うん、分かりやすいか……
 オレの方がマリィよりも、実年齢も精神年齢も上のハズなんだが、よほど彼女の方がしっかりしてるんだよな……。単にオレが浮わついてるのかもだけど。
 なんとなく情けなくなる半分、それだけオレの事を今まで見て来て、理解してくれている事に嬉しさも半分てところだ。

『久しぶりに会えるの、楽しみにしてるわね』
「! ああ、オレも!」
『それじゃあ、おやすみなさい。グ・ラハ』
「おやすみ、マリィ」

 ちょっとだけ反省して落ち込んでいた耳と尻尾が、とたんにまたピンと持ち上がる。
 会えるのが楽しみだなんて、その気持ちはオレの方がきっとずっと強い。でも、彼女もそうなのだと、明らかにしてくれるのが嬉しい。
 なんでもない、寝る前の挨拶を交わす事すら愛おしい。
 相変わらず、相手が望む言葉や行動を意図せず選ぶ人だ。とんでもない人たらしだと思う。
 そんなんだから、老若男女問わず、憧れる人が多いし、無論恋慕を向けられる事も多い。本人は本当に意図せず無意識にやってるし、恐ろしく鈍いから気づいてないんだろうけど。
 ……本当に、なんでオレが恋人になれたんだろうな。
 数えきれないほど居るだろう、オレより顔も性格も良くて、強くて優しい人達。彼女にふさわしい筈の人々を押しのけて、オレが。
 いや、……考え始めると、落ち込むのでやめよう。
 通話の切れたリンクパールを大切にしまいこんで、部屋の明かりを落としてベッドの中へと潜り込む。
 暗くなった部屋の中、自分の呼吸の音と、時計の針の音だけが耳に届く。
 かち、こち、と規則正しい控えめな音を聞きながら、瞳を閉じて、じきに眠気が訪れる……

「……そんな訳がないんだよなあ!」

 がばっ、と再び起き上がる。
 だって、三日後には久しぶりに会える確約を貰ってしまった。その興奮のおかげで、すっかり目なんか冴えている。
 いや、でも徹夜はダメだと釘を刺されたし。ちゃんと寝ないと、もしクマなんか作って出て行った日には、本気で呆れられる。それだけならまだしも、約束を守れない男だと嫌われたりしたら。
 だから夜は眠って心配をさせないようにしなければならない。
 しかし、今夜は眠れそうにない。
 ……いや、逆に考えろ。会えるのは三日後なんだ。それまで仕事を前倒しておいて、前日の夜きちんと眠れば問題ないんじゃないか?
 よし、そのプランで行こう。あの人の事だ、時間は指定しなかったけど、いつ来てもいいように早めに訪れてくれたりするはずだ。それを待たせてなるものか。その日は一日中、マリィと話を出来る日にするんだ!!
 バっと毛布を蹴り飛ばし、先程着替えたばかりの寝間着を再び着替えて意気揚々と部屋を出た。

 翌朝、早くに起きてきたクルルに心底呆れた顔をされたのは、言うまでもない。


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