ケントの密やかな楽しみ


 ケントは躊躇う事なく目の前で奮い勃つ男の肉棒にむしゃぶりつくと、雄の味と香りが口腔に広がった。熱を持った大きな肉棒は彼の口には収まりきらず、半ば含んでは唇を這わせ舌を絡ませながらねっとりと愛撫する。
 男の悦ぶツボは知り尽くしている。己の欲望そのままに相手に施すだけ。巧みに指と舌を使い分け、根元から先端まで刺激すると、頭上で男の顔が恍惚に歪み雄々しい喘ぎ声が漏れた。

 同時にケントも己を扱き始めた。片手で男の熱をまさぐりながら、巧みにもう片手で自らを慰める。男の吐息と熱を帯びた肉の感触が、双方の昂ぶりをさらに煽った。舌と指先に伝わる脈打つ鼓動、滴る熱——男の肉棒を舐めしゃぶるたびに自分の先端からも蜜が溢れ出す。

 ケントの口内に広がる塩気が男の昂ぶりを物語っている。喉奥にくわえ込むたびに、男の身体が小刻みに震え、荒い息遣いが耳元に降りかかる。指先を這わせ敏感な部分を責め立てると、男の声が一段と甘く掠れた。熱に浮かされたような声と共に、男の手がケントの髪を強く掴む。次の瞬間、男の腰が激しく揺れ、より深く、より強く、彼の口内を貫き——。
「んっ………むおっ………っ、いけない、いけない……」
 そう言いながら熱を帯びた硬い肉棒をケントの口から開放した。先走りの蜜と唾液が絡み合い糸を引き、ケントの荒い呼吸と共に吐き出された。
「自分だけ気持ちよくなってしまっては申し訳ないからね」
 男は意味ありげに微笑むとケントの濡れた体を仰臥させ覆い被さるように跪く。その視線が美味な食材を値踏みするよう全身を這う。よくもまあ壮年の男の肢体を楽しめるものだとケントは男に対して思った。が、成熟し脂の乗りきった雄の肉こそ独特のむっちりとした感触がある。その肌に触れれば程よく引き締まりながらも指先に吸いつくような弾力があり、濃厚な熱を孕んだ体温が一瞬で伝わってくる。

 男の手が首筋、胸筋から腹筋へと流れるように撫で、太ももを外側から内側へと丹念にまさぐる。男特有のザラザラした手のひらに愛撫されケントは呻いた。成熟した雄ならではの官能が全身を痺れさせた。そしてケントの屹立した肉棒が刺激され堪らず野太い嬌声をあげた。
 反応に気をよくした男はケントの腰を高く持ち上げ臀部の双丘を押し広げじっくりねぶるようにとケントの肉壺を視姦する。
「……おお………これは見事な」
 先の口淫の最中、ケントは自分を扱きながら時折肉壺にも刺激を与えていた。軍隊生活の中で性欲の捌け口として、同志の雄の種を注ぎ込まれたその肉壺は淫猥な変化を遂げている。それが男に露見したのを悟りケントは羞恥に全身を染めた。

「とても綺麗な肉びら………素敵だ」

 興奮で痰の絡んだような声でこれから犯す肉壺を誉める男。艶やかな色を醸し出しぷっくりと盛り上がる肉壺から肉棒を受け入れるための蜜を滴らせ別の生物のように蠢いていた。
 つつつ…ぬっっぐぷり…と内部にすんなりと侵入する男の指、内壁を確かめるようにひだのひとつひとつ丁寧に探る。そのたびにケントの身体がびくりと跳ね無意識にきゅっと締まる。
「くっ……そんな、乱暴に……っ」
「可愛いですね……まだこんなにきつく締めて……」
 にゅちゅり、くちゅり、と音を立てながら指が奥を探り、さらに一本、また一本と増えていく。焦らすように、しかし確実に深部へと広げていくその動きにケントの理性は蕩けまくっていた。
「や、やめ……もう……っ」
 やめろと口では拒みながらも、身体は快楽を乞うように震え疼きを求めてしまう。
「準備は万端のようだ」
 その反応を楽しみながら男は熱を滾らせた自身を手にし、ゆっくり……と思った刹那、根本まで一気に突き入れた——。

「——あ、ぁあぁっ……!!」

 いきなりの、だが心の奥底で求めていたものが自分に深く打ち込まれ歓喜の喘ぎが漏れた。ケントの反応に狂喜した男は動きを早め、肉壺の感触を堪能する事に没頭する。焦らしたかと思えば激しく突き立て、しつこく絡みつきながらも時折突き放すように——様々な動きで責め立てる。
 パンパンと尻に股間を打ちつける音が鳴り、室内に充満する湯気を掻き分け壁に反射する。それに合わせてケントの肉棒が腹に打ちつけんばかりに上下に激しく揺れた。そして胎内の一番鋭敏な部分を探り当てると執拗にそこを的確に突き立てる男の動きに、ケントは翻弄されながら身を委ねることしかできなかった。

「はあっはあっっっはああっ」
 二匹の雄の喘ぎ声が浴場にこだまする。初めは羞恥心で強張っていた肉体も、全てを受け入れんと四肢を広げ、熟れた雄を惜しみなく晒し、さも名器と言わんばかりに尻と高く掲げた。
 全てを曝け出したケントに対し、男は軽やかに体位を替え様々な位置から肉壺を突き立てた。その度にケントの肉棒から蜜がとどめなく溢れ、放精の準備に備え陰嚢が徐々に胎内に沈み込む。肉の擦れる音と雄の汁が溢れ、そして弾け飛んだ。

 肉壺の奥深く——胎内に男の熱い液体が放たれ充満していくのがよくわかった。無意識にぎゅううううと胎内が締まり、ひと雫も溢さぬよう男の肉棒を締め付けた。
「はあっはあっああああああ!!!!」
「ひっうぐううううっあうっっっ!」
 男はケントの肉壺と胎内の波打つ収縮の刺激に、たまらず呻きそして嬌声をあげた。ケントの脳内ではびゅくびゅくと己の鼓動と放精の波打つ感触が響く。同時に自分の腹の上に己の熱い白濁した液体が降り注ぎ喘いでいる腹の上をだらだらと流れ落ちた。

「んぐう…っ!はあっはあっはああっっっ」

 と脱力の声を上げ崩れ落ち、ケントと男の混ざり合った様々な体液がタイルの上に降り注ぐ。はあはあと息が弾みびくんびくんとしながら大の字に横たわる。
 男も同じように精魂尽きたのかケントに覆い被さり汗と湯気で濡れた肌が密着する。お互いの熱が絡み合う感触に溶けてゆくようだ。二人はしばらくその場に絡んだまま仰臥した。

 そしてこれまで一切交わされることのなかった接吻が、今ようやく果たされた。男同士がただ情欲をぶつけ合うだけの交尾の後に訪れる、優しくも切ない口づけ。
 もう男の熱しか知らない。
求めるのは己と同じ硬い筋肉、力強い腕、絡みつくような汗の匂い……。

肉の疼きが和らぎ昂った気持ちが次第に落ち着くと、ケントはのろのろと上体を起こし後始末をしようとした。しかしそれよりも早く男が立ち上がり、慣れた手つきで片付けを済ませてしまっていた。先ほどまで行われていた激しい雄同士の交わりが、まるで幻だったかのように湯気が隠し去っていた。

「ではまた、機会があれば」
 短い別れの言葉とともに男は何の未練もなく去っていく。その潔さがケントにはありがたかった。互いに深く干渉することなくただ快楽だけを享受し合う関係。
 もう一度湯に浸かってじっくりと火照った身体を癒やしてから帰ろうか——そう思ったが今の状態で湯に浸かればかえって足腰が立たなくなりそうだった。気力を振り絞り更衣室へ向かい、のろのろと着替えを済ませる。そして名残惜しさを感じながらもスパを後にした。



 帰路の途中、公園の木陰にあるベンチに腰を下ろし、スパでの淫らなひとときを反芻していた。胸の奥に宿る秘密、わくわくする期待とどこか後ろめたい罪の意識が絡み合う。誰にも知られてはいけないという葛藤が身体を包み込む。けれどこの甘美な感情に抗うことなどできそうもなかった。

 陽射しは強いが枝葉が作る影の下では涼やかな風が吹いている。その心地よい風がケントを撫で、スパで火照った肉体を優しく鎮めていく。

「……仕事も、そのうち見つかるさ」

 ぽつりと独り言を零しながら立ち上がり家路についた。何もない退屈な谷だと思っていたこの場所も案外悪くないかもしれない——そう思い始めていた。


——終——

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