海賊紳士のエスコート


 ムーン・ドバイが再起動してからも、第三世代は砂上船を使うことはなかった。すでに飽きられた娯楽。それでも、単一の機能を持つ私は日々整備をし、定期的に誰も乗らない船を走らせていた。そのうち、リソースの枯渇で止まることを予測しながら。

 人類滅亡ラスボス決定戦の投票が始まった日。波止場の案内ロボットから、砂上船の出港信号を受信した。
 この日は偶然、当船が定期メンテナンスを終えたばかりだった。案内ロボットは4番ドックで停泊中のE‐Ⅵ号を指定した。

 ドックから波止場に発進すると、四人の男女の姿があった。
「本当に砂漠の船だ……」
「四人どころか十人くらいは乗れそうですね」
「未来というからもっとSFじみた見た目かと思ったが、普通の船と変わりはなさそうだ」
「…………」
 明るいオレンジの髪色の少女、メガネをかけた少女、背の高い男性、そして角の生えた少女。いずれも第三世代ではなかった。以前からBBドバイの伝達で平行世界から呼び寄せた旧人類がいることは知っていたが、こうして会えるとは思わなかった。
 それでも、久々の利用者には違いない。乗船プログラムを実行する。
「いらっしゃいませ。本日は砂上船をご利用いただき、ありがとうございます。右手の乗降口から乗船ください」
「船が喋った!?」
「先輩、落ち着いてください。おそらく自動アナウンスです」
「あ、そっか。すごいなぁ」
「私はE‐Ⅵ号に搭載された船内ガイドAIです。利用者への案内以外に、船の操縦、メンテナンスなど船に関するサービスを行います」
 四人のストレス値を計測。……いずれも高く、警戒状態にある。特に先輩と呼ばれた少女は疲労値も高い。休息と補給が必要だ。
 乗船しようとする少女たちを制止して、硬い表情をした男性が前に出る。
「乗り込む前に二つ質問させてくれ。ここはエリアFの波止場だが、この船はアストルフォたちが関与していることはないかな?」
「その答えはいいえです。使用履歴にもありません」
「それを聞いて安心した。ではもう一つ。この船には水や食料がどの程度積んである?」
「申し訳ありません。現在有機体フレーム用のマテリアルは在庫切れとなっております。当船だけでなく、この波止場全体でです」
 それは長らく使われることがなかったためだ。ドリンクサービスの機能はあるが、長期保存に適さないマテリアルを補充することはなかった。
「それは残念だ。だが足ができたのは助かる。では乗り込むとしよう」

 乗船すると、男性は少女たちに休むように言って操縦席に真っ直ぐ近づいてきた。興味津々といった様子で設備を眺める男性に案内を行う。
「こちらは操縦席になります。手動運転を行いますか?」
「……いいや、しばらくは自動運転で頼むよ」
「了解しました。希望のコースはありますか?」
 モニターにいくつかのコースを表示する。男性は一瞬だけ悩む素振りを見せたが、すぐに答えた。
「できるだけ沖に出るコースにしてほしい」
 要望に添える最適なコースを演算。結果をモニターに表示する。
「それではこちらのコースはいかがでしょう」
「うん。それでいこう。そうだ、この船には大砲はないとしても、何か身を守るような装備はないかな?」
「緊急時には電磁障壁で船体の防御を行う機能があります。大型の削岩装置との衝突に備えてのものです」
 エリアFやIでの戦闘音から、彼らが各エリアの候補者や支持者に追われていることは推測していた。男性のストレス値は乗船前より軽減したものの、四人の中で一番警戒状態を示す値が高いので聞いたのだろう。
「最低限はあるということだね。ではすぐにでも出発してくれ」
「かしこまりました。それでは出港します」
 自動運転プログラムを実行する。エンジン音を響かせて、久々に利用者を乗せたE‐Ⅵ号は砂漠へと走り出した。

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