最終航海記録


 BBが企画した2030年――|風《・》であって本当に未来に来た訳ではないが――のドバイ観光ツアー。最近色々あったのだろうマスターのリフレッシュにはもってこいだ。もちろん、私も中々に楽しんだ。

 そんな観光ツアーのある夕方。皆で行った砂漠でのドライブから帰る少し前に、私は広大な砂漠に沈む夕日を眺めていた。夕日に照らされた砂漠は黄金色に輝き、ある種の海のようだ。この海を、船で行くことができたらどんなに気分がいいだろう。そう、|彼女《・・》と共に――

「――彼女?」

 ポツリと呟いた言葉に首を傾げる。彼女、とは誰のことだろう。頭の中の記憶を辿ろうとするが、雲を掴むように霧散してしまう。
 記憶にないとすると、いつかの聖杯戦争や何処かの特異点で召喚されたときの記録だろうか。だが、それにしては妙な気分だった。一抹の寂しささえ感じるような。
 |彼女《・・》。女性だろうか。だがどんな姿だったかさえもひどく朧《おぼろ》げで、確か声は、
「バーソロミューさん、どうかしましたか? ぼーっとしてると置いてかれちゃいますよ?」
 不意にかけられた明るい声に、沈みかけた思考が浮上する。今回の立役者であるBBがこちらの顔をのぞき込んでいた。
「……ああ、何でもないさ。ただ、砂の海というのも悪くないなと思ってね」
 曖昧に微笑んでからもう一度、砂漠に目を向ける。そこにはただ夕日に照らされた砂の海と、ゆっくりと浮かび始めた美しい月があるだけだった。

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