海に生きる男と海を知らない彼女


「バーソロミュー! そろそろ夕食だよ! 今日はチャッカリムの店貸し切りだって!」
 操舵室の外から聞こえるマスターの声に振り返る。窓から見える、元気そうな顔を見てホッとする。もうブルジュ・ハリファから降りるエレベーターに乗ったときのような、悲愴さはない。
 マスターにすぐ行くと返事をして立ち上がる。船の整備は終わったが、海風以外にも色々と話が盛り上がってしまった。
「いつの間にか夕方になっていたとはね。話の続きはまたの機会にしよう」
「はい。Mr.ロバーツの話は旧時代を知らない私にとって興味深いものばかりです。もちろん、データとしてのみ知っている青い海の話も」
「そう言ってもらえると、こちらとしても嬉しい限りだ。では、明日もよろしく頼むよ。ガイド君」
「こちらこそよろしくお願いします。Mr.ロバーツ。良い夜をお過ごしください」
 ガイド君の言葉に軽くうなずき、操舵室を後にする。外に出ると、風はまだ静かだった。

 ――時代も星も異なるこの地で良い仲間と巡り会えたことは、幸運だな。

 笑顔で手を振るマスターに振り返しながら、そんなことを思った。

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