転生後家が隣で腐れ縁になった五条&羂索の話

※羂索(記憶あり)と夏油(記憶なし)が双子
※宿儺先生が居る
※五条に事情あり
※長くなりすぎたのでぶった切って腐れ縁感薄いですごめんなさい。









「げっ」

 いつも通りの月曜日。学校に向かおうと共に家を出た瞬間に、ソレは突然視界の中に入り込んできた。
 年齢はいくつか下だろうか。制服も着ていないその少年は真っ白で、まるで浮かび上がるかのようにその場にぼんやり立っている。
 私の声に気付いてぼんやりとこちらを見た顔は、頬にあるでっかい絆創膏や片目を隠す眼帯ごしにもその美しさが分かった。真っ青な、光を放っているかのような青い瞳も──皮肉なことに健在だ。
 少年は我々を見ると抱き締めていたぬいぐるみをぼたっと落として、

「け、羂索!? てめーなんでその顔してんだよ!!」
「第一に言うことはそれかい君は」
「傑! 傑はいねぇのかよっ! お前が居て傑が居ない道理はねぇだろ!」
「傑は今日の日直だから先に学校に行ったよ。双子なんだ」
「傑はそれでいいワケ?!」
「彼は覚えてないんだよねぇ。私が脳を食べちゃったからかな?」
「シャレになってねーのわかってる???」

 五条悟。
 前世において私が一番警戒していた存在であり、全てにおいての障害になると思っていた男。
 そもそもが私が転生したということにも驚いたものだっがた、まさか五条悟にも遭遇出来るとは思わなかった。
 夏油傑が双子の兄だったことには、正直そんなに驚いていない。
 真人は魂は肉体であり、肉体も魂である的ななんかそんなような事を言っていたから、死んだ時に使っていた身体に魂の形が固着してしまうのもまぁ、無いわけではないのだろう。
 知らんけど。
 呪術なんてものがろくすっぽない時代だっていうのに、子供の頃の交通事故で額に縫い目が残った時には手を叩いて笑ったが(傑には泣きながら「笑い処じゃない」とキレられた)、まったく同じ見た目だったので見分けがついていいだろう(そう慰めたら傑には泣きながら殴られた)。
 私はあそこで殺された段階で、ぶっちゃけ結構満足していた。面白い術式と面白い相方に恵まれたし、最期には思いっきりやりたいことをやって死んだと思う。
 だから転生した時には驚いたけれど、もしかしてこれは相当数の呪術師が転生してるってことなのかな?
 ぶすくれた顔をしている五条悟はいくらか年下のようだが、私と夏油傑は当然同い年。
 同じ学校に居る宿儺は何故か体育教師をやっていて、再会した時にはお互い腹を抱えて笑ってしまった(傑には「先生に失礼だろう」と小一時間説教された)。
 今のところ見かけたのは我々と宿儺だけなので油断していたが、呪術師側が転生してきているとなると相当面倒かも、しれない。

「にしても、やけにチビでボロボロじゃないか。転生失敗したのかな? 小学生?」
「うるせーーなぁ……つか隣の家かよ。最悪。火事になれ」
「そうなると傑も家を追われるよ?」
「俺の家が燃えろつったの」
「その呪い方斬新すぎないかい?」

 一応この時代にも、呪いというものは存在する。
 呪術師、呪詛師という存在が居るかは知らないが、誰かに向けて恨み言を吐けば天に唾吐くように戻って来る、なんてことは当たり前にジジババからの話に出てくるものだ。
 まさか今どきそんなもので火事が起きるとは思っていないけれど、五条悟が言うとなんだか出来てしまいそうなので本当に勘弁して欲しい。
 隣の家に面している部屋は、私の部屋なのだ。
 それはともかく、五条悟は外見的には中学生になるかならないかくらい。
 今年受験生になる我々と同じ学校に入ってくるのなら、2つ後輩になるだろうか。
 でも身長は以前ほど高くなく、顔だけじゃなく指がギプスで固定されていたり、膝に包帯が巻かれていたりと顔以外がやかましい。
 交通事故にでもあったんだろうか、とツッコもうと思ったけれど、私の額の傷も人のことは言えないのでやめておいた。
 はしたなく舌打ちした五条悟がぬいぐるみを拾って家の中に入っていってしまったから、これ以上言えなかったというのもあるけれど。

「やぁ、おはよう五条くん」
「げぇ」
「はぁ……」

 ソレ以降、我々はどうにもちょくちょく顔を合わせるようになった。
 五条悟は私だけじゃなく傑とも出来るだけ関わらないようにしたいのか、登校時間がかぶった時にもめちゃくちゃ「いい」顔をしてくれる。
 傑は「嫌われちゃったかな」と心配をしていたけれど、嫌われてるのは主に私だから傑のせいではない。まぁ、五条悟の性格からして、傑が思い出す可能性を少しでも下げたい、というのもあるのだろうけれど。
 まぁ~そんなの私が双子として産まれちゃってる次点で無駄な努力なんだけどねぇ?
 会わないようにしようと少し早い時間に家を出れば向こうも同じタイミングでドアを開き、ならば遅くすると見せかけて昨日と同じように早めに家を出ればやっぱり遭遇する。
 高校ならばともかく、残念ながら我々が通っているのは徒歩圏内の中学校。
 あの時の我々は結構な虚無顔だったよと、傑が言っていたのには笑った。君が虚無とか言うんじゃない。
 ちなみに案の定同じ学校の後輩だった五条悟が宿儺と遭遇した時には、両唇を内側から噛んでなんか面白い顔になって宿儺を笑わせていた。喜べばいいのか悲しめばいいのか、とでも言いたげなびみょーな表情だ。
 それでも女子はキャーキャー言うのだから、もしかして3年間でこの双子の塩顔イケメンには飽きられていたのかもしれない。
 
「五条くん、いい子だよね」
「ん、ふふっ」

 そんでもって傑の評価はこんな感じで、私は毎回変な笑いが出てしまう。
 私とアイツの喧嘩を見せてないからそう思うだけだよ、傑。
 アイツ、偶然夜道で遭遇すると電信柱と壁の隙間とかに隠密してバックスタブ仕掛けてこようとするのだから、末恐ろしい。
 相変わらずの眼帯に包帯に……の状態でそれをやるから、夜道だと結構怖いんだよね。
 
 でも傑は、五条悟と出会った日からアレのことが気になって仕方がないらしい。
 まぁ、学校にも持ってきているぬいぐるみに、まったく治らないどころか日々増えているようにも思える身体中の怪我。学校は最終下校時刻までは絶対に帰らないし、宿儺先生ともよくお話をしているようだ。
 私は過去のアレを知っているからなんとなくスルー出来てるけど、何も知らない傑は気になってしょうがないんだろう。
 あの顔だし。
 
「おい、傑……思い出してないよな」
「思い出してたら君のことをイイコなんて言わないと思わない?」
「よし、ぶん殴ろう」
「えー? ギプスの状態でぇ~?」

 残念ながら、我々の関係性は受験という平凡で当たり前な日常で切り離されつつあった。
 学校でたまに顔を合わせるが、話をするような時間はないのでほんの一言二言程度。夜道のバックスタブも、いつの間にかなくなった。
 それでも学校に行くタイミングは何故かいつも一緒だし、傑がアレを誘うので仕方なくその時間だけは毎回一緒に過ごした。

 そうして出会ってから1年。
 私達は高校生になり、五条悟は中学2年生。私と傑の通っている学校は近場の中では特に偏差値の高い学校だから、アレが来る可能性は高いだろう。
 皮肉なことに、アレは前世と同じく今世でも優秀だ。本人がそれを望んでいなくても、勝手に頭がそう出来ている。
 違うことといえば、怪我が全然減らないっていう、それだけ。

「マジで、火事になれ」
「傑と私の部屋が逆になったら、火事になってもいいよ」
「……じゃあ火事にならなくていい」
「君、今ついでに私の部屋を燃やそうとしてたって自白した?」

 今日も五条悟は片腕を三角巾で吊ったまま、公園のベンチで座っていた。
 高校に入って色々な部活の助っ人として引っ張りだこになっている傑と違って、私は健全な帰宅部だ。
 そこに特に意味なんかない。興味のある部活が無かったのもあるし、授業が終わってすぐに帰れば、まだこの中学生が中学の近くの公園でぼんやりしているのを知っているから、ってのもある。
 知ってたからって、どうこうするつもりはないんだけど。

「ねぇ、逃げちゃいなよ」
「僕、お前と違って無責任といい加減で出来てないから」
「知ってる。嘘と意地張りの塊でしょ」
「いやーお前と違ってかなり真っ当なイキモノじゃない?」
「自分をイキモノとか言ってる時点でまだ人間になれてないよ、君」
「世の中には、そういうバケモノをイジめて楽しむヘンタイも居んだよ。お前とかモテんじゃね?」
「いやぁ~ん。ケンくん心に決めた人が居るからぁ~」
「キッショ」
「それ私のセリフね」 

 五条悟は、どうやら高校受験を反対されているらしいと、宿儺が言っていた。
 情報源宿儺だよ。信じられる? 面白すぎるだろ。
 でもきっと、私達の通ってる高校に誰が居るかを知れば、コレは死ぬ気で高校受験に挑んでくるだろう。
 だから教えてやらない。教えたら多分、コイツ死ぬし。

 今日も今日とて抱き締めているぬいぐるみは、もう古ぼけていて一度千切れた腕を布とは違う色の糸で無理矢理補修されているよう。
 このぬいぐるみがコイツの命綱なんだとみんな気付いているから、誰も何も言わないんだろうなぁ、って。
 オレンジ色から藍色になり始めている空を眺めながら、私はちょっとそんなキショい事を考えてしまった。
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