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あれから、俺は雨上リラと度々行為をするようになった。
初めてセックスしたあの後、二人ともシャワーを浴びて休憩する間に連絡先を交換した。応じないと動画のことをバラす、と言っても眉を下げて笑うばかりで、何の脅しにもなっていないことを実感した。それでもなぜか彼女はメッセージを送れば大抵は応じて、ホテルへ俺の手を引いていくのだった。
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「お前さ、雨上と付き合ってんの?」
ある日、いつもの面子でつるんでいると突然一人が尋ねてきた。俺は飲んでいたいちごミルクを誤嚥しかけて咳き込む。
「なんで? 付き合ってねえよ」
「本当か? 最近なんか仲良くなってない?」
「あー、ちょっと勉強とか教えてもらって……難しいから何回か勉強会を続けてんだよ」
適当な嘘だが、まあそう不自然ではないだろう。彼女はよく課題をやるのに休憩時間を費やしているのを見る。勉強は嫌いではないのだと、いつぞやかの事後に聞いた覚えがあった。
「ふうん。でもアイツとつるむのやめた方がいいぜ。女子に噂される」
「……パパ活やってるってやつ?」
「そうそれ。最近はハッシュタグも変わってきて……っと、まあとにかく、ホテル街の辺りで見た女子が居るんだって」
「それさあ、見た女子の方もなんで居るんだよって話じゃん」
「え? あ、ほんとだ。えー! 闇じゃん!」
「だろ」
まあ、噂は限りなく本当なのだが。アホな友人の矛先を逸らせたことにほっとする。
そもそもあんな動画がある時点で、金をもらってかそうでないかに関わらず年上の男複数人とセックスはしているわけで。そりゃ売春してたっておかしかないだろうな、と思う。むしろ金をもらわずにやってるならそれは変態とか痴女の域だ。
「でもなんか、雨上んちって大変らしいからさあ。パパ活もやむなしじゃね?」
「何それ」
「お母さん居ないんだって。三者面談に父親が来てたから訊いたら二人暮らしって」
それは知らない情報だ。彼女はそんなこと言っていただろうか?
ていうか、お前も話しかけてんじゃねえか、おい。
「まーなんか、あいつ如何にも不幸そうな顔はしてるよな。美人薄幸ってやつ? ん? なんか違う」
「美人薄命」
「それだ。え? 死ぬの?」
「えー……短命だったり不幸だったりらしい。不幸だけでも間違いではなさそう」
「ふーん。じゃあそれで」
少し手元の端末で入力すれば馬鹿でも叡智に接続できる、本当に便利な世の中だ。
まあ、薄幸そうな美人という評には同意する。顔立ちは整っているが眼差しにはどこか影があり、華奢で薄く細い身体も頼りなくて、あまり元気にしているイメージも湧かない。
「美人ではあるから、ヤってみたくはあるよなー」
「そうか? 胸小さいし俺はそんなにだな」
「おっぱい魔人がよ……」
男子高校生のアホらしい会話を耳にしながら、あの女を性的な目で見る存在へのわずかな苛立ちと、彼らと違ってあの女の身体を味わったことがあるのだという密かな優越感を覚えていた。
少なくとも、同級生相手にはそんな態度でいられた。あの姿を見るまでは。
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