I、嵐の始まり


 「シルヴァン…よく聞きなさい。これからますます死刑執行人の仕事が増えるかもしれない。王国が大変なことになりそうなんだ。その時はシルヴァン、君は私の助手として働いてもらいたい。君が生きていく未来、決して目をそらさないで─」
 

 1753年の春、イヴェール王国の首都リュエイユを中心に、社会を大きく揺るがす「嵐」が発生する。
 この当時私はまだ十歳くらいで、正直なところ社会で何が起こっているのか予想もつかず、ただ処刑人の子供としての運命を受け入れるのに必死であった。
 その「嵐」が発生したきっかけは些細なことだったようだ。
 カミーユ・ド・プランタンという若き政治家がこの社会を揺るがした黒幕だった…と伝えられているようだが、それは彼の名がいささか一人歩きしてしまったせいもあるだろう。
 彼は意気地なしと言われているほど気弱だった。いつも誰かの影に隠れていたという。
 後にその影が無(亡)くなったあと、自分が政治界の第一人者にならなくてはならなかった。
 散々小馬鹿にされ続けてきた彼は、自分にだって社会を変える力はあるのだと立ち上がった。それで真っ当な政治を行えばよかったものを、彼は歪な方法で人々を支配していった。
 権力を振りかざし恐怖で民衆を押さえつけ、逆らう者は処刑台送りにする。簡単に言えば、それが彼のやり方だった。
 しかしこれはまだ嵐の始まりに過ぎないのだ─。
次へ

powered by 小説執筆ツール「notes」

50 回読まれています