なまはげ


 本丸の玄関前には、山鳥毛を含めた一文字の刀が三振り揃っていた。
「子猫は勝手口、日光は裏から回りなさい」
「御意」
「うす、にゃ」
二振りはきびきびと返事をすると、藁蓑を翻して散って行く。
 山鳥毛のみが玄関前に待機して、ふたりの合図を待った。空は曇り、空気には饐えた臭いが入り混じり、辺りを見回せば草木は枯れ果てて池は澱み腐っている。最悪の本丸である。この本丸で何振りの刀が折られたのだろう。この惨状に至る経緯を思って、山鳥毛はひっそりとため息をついた。
 山鳥毛が静かに心を痛めていると、インカムから位置についたと連絡があった。小脇に抱えていた面を付ける。山鳥毛の顔をすっぽりと覆うそれは巨大だった。
 一瞬視界は闇に閉ざされ、再び目蓋を開ける。視野は狭い。木製なので、装着するとずっしりとした重みが首から肩にかかる。もとより身につけていた蓑や脛巾は動きを制限している。この不自由さを実感すると、もう己は刀剣男士ではないのだと思うのだった。
「では行くぞ」
合図とともに玄関の扉を蹴り飛ばした。声を張り上げる。
 この瞬間から、山鳥毛は一介の刀剣男士ではなくなる。
「悪い子はいねえが────!」
ナマハゲになるのである。




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