竜3匹のこたつ話 1

 ある神殿の一室で、背筋を伸ばして座っている竜人が大きくため息をついた。
 「竜人ってことは爬虫類に属する。つまり変温だから寒いのは苦手だろう?と決めつけられ、こうして炬燵に押し込められることになろうとは。」
 竜人レクサールは、同じく炬燵を囲んでいる二人の少女を交互に見ながら、再びため息をつく。
 「暖房も効いていて快適だからいいじゃないか。食べ物もあるし。待合所も大所帯で騒がしいからな。」
 レクサールの左側で炬燵に入っている、やや青みがかった銀髪の少女――ネイリはむしろ得したと言わんばかりに、炬燵の上にあるミカンを手に取り齧った。
 見た目は一番人に近いのに、皮ごと齧っては何も気にせず咀嚼しているのは、彼女の住んでいた世界がそういう文化なのか……はたまた、【竜】そのものだからその辺りが大雑把なのか。
 「ネイリ、その食べ物は皮ごと食べるものではない。このように皮を剥き、中の身を食すのだ。……リン、ネイリの真似してはならぬ。皮を剥いた物を渡すからそれを食べるのだ。」
 レクサールは丁寧に皮を剥いたミカンを、右隣でこたつに顔を引っ付けて丸くなっているリンと呼ばれた赤髪の少女に差し出した。
  リンはそれを無言で受け取り、そのまま表情を変えることなく食べ始める。
 「別に、皮を剥いても剥かなくても味が変わらないし、特に問題ないだろう。」
 「文化的ではないということだ。金銀財宝囲い込んで洞窟で過ごしているドラゴンでもあるまいに。」
 「完全に見た目がドラゴンなお前が言うか?」
 ネイリは冷ややかな目線でレクサールを眺める。
 肌や見た目がほとんど完全に人間であり、羽や尻尾も出したり仕舞うことのできるネイリとは違い、レクサールは完全な竜人だ。
 肌は強固な竜鱗に覆われ、顔もドラゴンそのものである。体形が人間であるというだけで、背には大きな翼があるし、武器にもなる強靭な尻尾も持っている。
 ちなみに横でくつろいでいるリンは人間の肌と体形で、そこから尻尾と羽が生えているので、どちらかと言えば人間に近い。
 「そういえば、まるで物語の騎士みたいな喋り方をしているが、なんだそれは。キャラ付けか?」
 「キャラ付け?よくわからんが、私はそもそも騎士だ。……いや、元騎士といった方が正確か。今は冒険者をしている。」
 冒険者、と聞いてリンがレクサールの方に顔を向ける。
 だらしなく地面に横わたっていた尻尾がちょっと持ち上がり、耳が動いているので興味があるのだろう。
 「冒険者!ということはいろんなところを旅しているんだな!どんな所に行ってきたんだ!?」
 ネイリも旅路で見た未知なる風景に心躍らされるのだろうか。目を輝かせて話に喰いついてくる。
 「どんなところに、か。無論旅をすることもあるが、基本的に私たちは一つのギルドに籍を置き、そこに来る依頼を消化し、報酬を得る。まあ、その街で活動している傭兵といったところか。トレジャーハンターのようなことをしている者もいるが、私は護衛の依頼を受けることが多い。その関係で商人について回ることがほとんどでな。期待を裏切るようで悪いが、遺跡だとか未踏の地に行くことはほとんどないのだ。」
 「でも腕の立つ護衛なんだろう?だったらほら、遺跡の話の1つや2つくらいないのか?」
 「私の世界では、遺跡探索において、私のような者は同行しないことが多くてな。多くは遺跡の構造を調べることができる学者、危険を感知し罠を解除できる斥候、あとは透視が使え空も飛べ、壁を歩くことができる魔術師や、常に安全な水を提供できる妖精使いで編成されることが多い。私が行くのは遺跡までの護衛と、遺跡内部に危険があった場合の対処に割り振られる。あとは……所在不明の遺跡を探してくれと依頼された場合か。」
 「冒険者って何かもっと自由だと思ってたけど、そうやって聞いていると私の国で働いてるその辺のやつらと変わらない不自由さだな……。夢が壊れる。」
 「適材適所だ。私が遺跡に行っても罠を踏むことくらいしかできん。それか荷物持ちだな。」
 レクサールは残念そうな顔をしている二人に向けて、これが現実だ。と告げてお茶を飲み干す。
 いつの時代も、理想と現実は噛み合わないものなのだろう。
 炬燵に突っ伏す二人を眺めながら、レクサールは少し昔を思い出していた。




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