竜3匹のこたつ話 2
「で、また今日も置いて行かれたわけだが……何故こう我々三人が隔離されるのか。種族が違うから話も弾まんというのに。」
「まったくだ。冒険者というから面白そうな話があるかと思ったのに、ふたを開ければ血生臭い話か、ドロドロの修羅場しかない……。何か面白い話題は?」
「思いつかん。やはりまた無言でミカンの貪るだけの時間になりそうだな。うむ、確かに退屈といえる。」
「……そう?」
やや力ない声で喋るレクサールとネイリをよそに、不思議そうに首をかしげるたリンを見て、「ああ、この子は無言でいても問題ないタイプの子か……」とネイリとレクサールは空を仰いだ。
今日も探索メンバーから外れている2人は、相変わらず待合室ではなく、神殿の一角にある炬燵部屋に押し込まれていた。冷暖房完備の部屋だが、そもそも彼らに冷暖房が基本必要ないということが、彼らを除いた仲間たちにいつ認識されるのだろうか。底意地の悪い女神はすでに気づいているような気もするが、わざわざ波風を立てる案件でもない。今日も彼らは甘んじて炬燵を受け入れていた。
「そういえば、レクサールはその見た目でなぜ寒さに強いんだ?私の世界では、ドラゴンは氷に弱いっていうのが通説だったぞ。氷の魔法が2倍のダメージになってたりもした。もしかしてその見た目で氷の竜族とか?」
前々から疑問に思っていたのだろう。見た目が2足歩行する大きなトカゲであるレクサールが、寒さに強いのが納得いかない様子で、ネイリはレクサールに向かってそう投げかけた。レクサールの見た目は茶色の竜人だ。ネイリからしてみれば氷どころか地竜の系列だし、彼女の世界的には氷はレクサールに対して4倍特攻だ。どう考えても腑に落ちない。
「いや、それはそのままお主にも適用されるのだが……そうだな、私の場合は特殊な呼吸法のおかげともいえる。」
そもそも、私の種族に竜種の区別などない。といい、レクサールは羊羹をつまむ。
「私の世界には特殊な呼吸法によって肉体を変化させる術がある。これによって、熱さにも寒さにも簡単に適応できるのだ。極めたものは蹴りで壁を吹き飛ばしたり、火を吐き出したり、竜の尻尾を生やしたりできるのだが……ネイリ、どうした?」
「ん、ああ、いや、すまない。何でもないんだ。」
怪訝な顔つきで見てくるレクサールに、ネイリはあわてて首を振ってなんでもない、とごまかす。
「(……もしかして師匠は世界線を越えてその技術を習得しているのでは?)」
という疑問がネイリの心の内からふつふつと浮かび上がってくるものの、いったん落ち着いて考え直し、「まあ師匠だし関係ないだろう。」と結論付けることにした。
しかし、同時にこの呼吸法を習得することで、もしかしたら師匠に近づけるのでは?という考えも胸に浮かんでくる。となれば、この機を逃すわけにはいかない。
「たしか昔、物語で読んだんだが、呼吸法を極めたら我々に隠されている潜在能力を引き出すとかできるんだろう!?是非教えてくれ!!」
「……!」
ネイリの話を聞いて、リンも興味深そうにレクサールの方を見る。リンも冒険者として強くなりたいという思いがある。もしこれでより強くなれるのならば、それは願ったりかなったりだった。
が、肝心のレクサールといえば、羊羹を片手に頭の上に疑問符を大量に浮かべていた。
「そんなもの聞いたこともない。仮にそのような呼吸法があるのならば、私の世界は超人が跋扈していることだろう。誰も彼もがそこらかしこでコーホーコーホーとうるさいことが想像に難くない。が、簡単なものくらいなら教えてもよかろう。」
地道な鍛錬こそが最も近道だ。とレクサールは持っていた羊羹を頬張る。
リンはそれでも早く教えてほしいと無言の圧をかけているが、それを聞いたネイリは再び炬燵に突っ伏すことになる。
とはいえ異世界の知らない技術だ。興味が惹かれないといえばそれは嘘になる。しばらく炬燵に突っ伏していたが、湯呑を持ったままリンに引きずられていくレクサールを見て彼女もあわてて後を追いかけた。
……ただ、彼女たちがレクサールの技術を取得できたかはあえて触れないでおくとしよう。
技術を習得するものではなく、教える者にも向き不向きというものがあるのだ。
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