我妻・惇①
あがつま
あがつま。そう聞こえたら気を向けないといけない。怒鳴る声なら気を付けて殺さないと。震える声なら追いかけて殺さないと。穏やかな声なら叫びながら殺さないと。そしたら食えるし、寝れる。そんで起きたら、また殺さないと。また殺せる。
隣のは、殺したらいけない。武器を持ってて、向かい合ってるのだけ殺さないといけない。そう言われた。
隣がこっちを見てる。向かい合ってるけど武器は持ってない。手に持ったら殺さないといけないけど、隣のは殺したらいけない。見てる間に暗くなって、見えにくくなったから見るのをやめた。
なんで見てたのか。なんで殺したらいけないのか。あがつまって言ったら、殺されてたのか。また見たくて探したけど、どこにもいなかった。
次の隣のやつも、見てたら見返してきた。次も、その次も。殺されたやつはまた見れたけど、見返しては来なかった。
◆
あがつま、というのは呼びかけらしい。この集まりがそんな名前で、隣は敵じゃないから殺したらいけなくて、呼んでくるのは殺さないといけない敵らしい。呼ばなくても敵だと分かるようになったから、これからはもっと殺せる。殺さないと。
同じ隣と会うことはほとんどない。訊ねても誰も答えない。たぶん、そいつは死んで置いて行かれたんだろう。あがつまは、そういうものだ。違って見えるけど、ぜんぶ同じなんだろう。
◆
「みごとだ」
そんなことを言われた。殺しきれなかったから話せたんだろう。歯を剥いて見返してきた。言ってる意味はわからない。たぶんもうすぐ死ぬ。
「名前は」
あがつま、と答えた。さっきも呼んでたから、わざわざ訊ねる必要もないだろうに。そいつは見たこともないような顔をした。もう死ぬ。
「まことに――」
死んだ。言ってた意味は分からない。強い敵を、殺した。同じ武器を使う敵を、殺した。強い武器だったから使うことにした。良いものは戻ったら取り上げられるだろうから、それまでの間だろう。
嫌だな、と、思った。
死んだら、戻らなくて良いんだろうか。誰が死んだかなんて、誰も知らない。死んだことになったら、もしかして。立ってたら暗くなって、見えにくくなったから、そのままそこで寝た。
その日、他のあがつまはどこかにいなくなった。
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