1-2 邂逅
小さな教室の窓の向こうでは、雪の結晶が舞い散っている。村の子供たちは無言で座り、凍えるような冷たい空気の中、先生が静かに声を掛けた。
「今日は転入生を紹介します」
村の子供たちは僅かに顔を上げたが、その反応は冷ややかだった。閉鎖的な村の中で、新しい存在に興味を示す者はほとんどいない。しかし、教室の扉が静かに開かれ、少女が入ってきた瞬間、冷え切った空気が一瞬だけ和らいだように感じられた。
「は、はじめまして……! せな、ふうこ……です……!」
鳳子は恥ずかしそうにうつむきながら、可憐な声で自己紹介をした。寒さで赤らんだ頬に、輝く瞳、肩にさらりと落ちる黒髪、その姿はまるで雪の中に咲く一輪の花のようだった。その愛らしさに、教室の全員の視線が一瞬だけ彼女に集中した。
だが、教室の雰囲気はすぐに元の冷たさを取り戻した。転校生に対する好奇心や関心はすぐに薄れ、子供たちは再び無関心な表情を浮かべた。教室の隅にいる仁美里も、同様に無表情で鳳子を見つめていた。
彼女は鳳子に視線を向けていたが、その瞳はどこか遠くを見つめているようだった。机に肘をつき、頬杖をつきながら、指先でペンをくるくると回している。教室のざわめきや周囲の反応に無関心で、飽きたように窓の外を見続けた。
鳳子は、教室の中で唯一気になる存在だった仁美里に向かって、意を決して歩み寄った。昨夜の演舞に心を奪われた彼女は、どうしても彼女と友達になりたいと思っていた。
「……ねえ、昨夜、あなたの演舞を見たの。とても……とても綺麗だった!」
鳳子の声は、春の風のように柔らかく、優しく、しかし確かに仁美里の耳に届いた。彼女の頬は赤く染まり、瞳はまるで恋する乙女のように輝いていた。鳳子の言葉には、純粋な憧れが込められていた。
仁美里は一瞬だけペンの回転を止め、視線を鳳子に向けた。その目には冷たさが宿り、まるで無関心を装うかのように、鳳子の顔をじっと見つめた。そして、わずかに眉をひそめると、すぐにペンを机に無造作に投げ出した。ペンが机の上で乾いた音を立てて転がる。
「……大したことじゃないわよ」
仁美里は冷ややかに答え、まるで鳳子の存在を無視するかのように椅子の背もたれに深くもたれかかり、足を組んで視線を外した。その仕草は、彼女が関心を持つことさえ面倒だと言わんばかりだった。
鳳子は一瞬、言葉を失った。しかし、それでも彼女は諦めず、再び勇気を振り絞って仁美里に話しかけた。
「私、あなたと友達になりたいな……」
その言葉に、仁美里は再び鳳子を見つめたが、その視線には冷たい光が宿り、少しも揺るがなかった。彼女の瞳はまるで、鳳子の純粋な思いを冷たく凍りつかせるかのようだった。そして、仁美里は無言で立ち上がると、教室の隅に置かれた棚から教科書を無造作に引っ張り出し、再び席に戻って座り直した。
「……そう。勝手にすればいいわ」
仁美里は一言だけ冷たく放ち、教科書を広げて無表情でページをめくり始めた。その態度は、鳳子の言葉が空気のように無意味であるかのように、完全に無視していた。
鳳子はその冷たい反応に胸を痛めながらも、それ以上の言葉を紡ぐことができなかった。彼女の心には、仁美里に対する憧れと寂しさが交錯し、ただ静かに教室の中で立ち尽くしていた。
凍てつく風が鳳子の頬を切り裂くように吹きつける中、彼女は微笑んで、再び仁美里の方へと視線を向けた。彼女の心には、決して諦めることのない強い思いが宿っていた。
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