1-1 雪片と火の粉
冬の擬羽村は、まるで時が止まったかのように静寂に包まれ、冷たさが漂っていた。凍てつく風が森を抜け、木々の枝を揺らすたびに、しんしんと降り積もる雪が村を一面の白銀に染め上げていく。重たく垂れ込めた灰色の雲が空を覆い、陽の光はほとんど届かず、寒さは骨の芯まで染み渡った。村全体が冷たく閉ざされた空気に包まれ、人々は無言で日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の少女が村にやって来た。彼女の名は世成鳳子。肩まで伸びた黒髪は雪に溶け込みそうなほど暗く、赤い瞳は夜闇に浮かび上がるようだった。
鳳子がこの村に来たのは、母親が彼女を置き去りにして去ってしまったからだ。彼女は古びたボロ屋に一人で住むことになったが、その家は外から見るだけで老朽化が進んでおり、寒さを凌ぐにはあまりにも頼りない場所だった。
夜が訪れ、村はさらに深い静寂に包まれた。鳳子は薄暗い部屋の中で膝を抱え、小さくなっていた。母親がもう戻らないことを悟りつつも、心のどこかで「いつか母親が迎えにきて、私を愛してくれるのではないか」という淡い期待を抱いていた。
その時、遠くからかすかな音が聞こえてきた。賑やかな声や太鼓の音が風に乗って鳳子の耳に届いた。彼女はその音に引き寄せられるように、外へと出た。寒さに震えながら、音のする方へと歩みを進めた。
その音の正体は、村で行われている神事だった。村人たちが集まり、巫女が神に捧げる演舞を行っていた。鳳子は村の広場に辿り着き、人々の間からその光景を見つめた。舞台の上で、一人の少女が優雅に舞っている。白い髪が月明かりに照らされ、幻想的な光景を生み出していた。
「……きれい……」
鳳子は思わず呟いた。その少女の姿に、彼女は心を奪われた。凛とした立ち振る舞い、美しい動き、そのすべてが鳳子の心に深く響いた。彼女にとって、その少女はまさに闇夜に輝く月のようだった。
その少女の名は乙咲仁美里。鳳子と同じくらいの年齢だが、村の神に仕える巫女としての役割を果たしていた。厳しい環境で育ち、感情を押し殺してきた仁美里にとって、この演舞は唯一、自分を解放できる瞬間だった。
鳳子はその演舞を見つめながら、心の中で誓った。
――あの子と、友達になりたい!
冷たい夜風が吹き付ける中、鳳子はその場に立ち尽くす。彼女の視線の先には、一人の少女が佇んでいた。その少女こそが、鳳子にとって希望の光であり、未来を切り開く鍵となる存在であることを、この時の鳳子はまだ知らない。
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